第8話 遺跡の底

じんわりと、熱を感じる。

体を包み込む、九つの尾。

助けてなんていらない。

俺はお前が大嫌いだ。

…いや、違う。

お前を受け入れている俺自身が、大嫌いだ。


「う…」


身を捩れば、身体中に剣を刺されたような痛みが走る。

目を開くこともままならず、枯れた喉から押し出された声だけが微かに漏れる。

口の中に広がる血の味に記憶を辿り、ラシウスはやっと遺跡の底へ落とされたことを思い出した。


「う…はぁ、生…きてる」


渾身の力で仰向けになると両手を広げて息を乱す。

生きてる、とは言えないだろう。

自分はもう間も無くここで力尽き、果てるのだから。

指一本と動かさなければ痛みは然程気にならない。

完全に麻痺した痛覚より、今は強烈に喉が干上がっている。


しばらく意識朦朧としていると、暗闇の中から金属を引きずるような音がした。

不気味な音はゆっくり近づき、ラシウスのすぐそばでぴたりと止まる。

ぼやける視界に割り込んなのは、濁り沼のように燻んだ双眸だった。

反応もできずにいると、大きな目は何度か瞬きをしてから消えた。


代わりにポタリと頬に冷たい水が落ちた。

口元にひんやりとした石が当たり、その窪みから控えめに水が流れ込んでくる。

何よりも欲していた潤いに、喉が歓喜の音を立てた。

ラシウスはやっと意識がまともに浮上すると、水を与えてくれた手を見つめた。


痩せた上に、傷だらけな手だ。

骨が浮くほど線が細い。

伸びっぱなしの黒髪は肩で揺れ、濁った瞳が瞬いている。

布を腰元で縛っただけの簡素な服には小さな体が包まれていた。


(悪魔の、子…)


恐らく間違いではない。

その子どもは、水がなくなるとまた剣を引き摺りながら闇の中へと消えた。

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