第5話 少女の話

どれだけ周りが見惚れても、ラシウスはびくともしなかった。

むしろ瞳に浮かぶのは仄かな嫌悪だ。

レイドは彼が本格的な不機嫌に陥らぬよう、さっさと話を進めた。


「俺たちはわけあってその悪魔を探している。何でもいいから知ってる事を教えてくれないか」


すっかりラシウスに目を奪われていたリュカは、のろのろとレイドに向き直った。


「あの…、その子のことは、私たちもよく分からないんです」

「見た目や特徴は?」

「え…と、とても小さな子どもでした」


少女はやや言葉に乏しいのか、これでは中々有力な情報が得られないだろう。

レイドは質問の仕方を具体的に変えた。


「髪や瞳、肌の色は?」

「髪は確か黒かったような…。目はなんだか濁っていて、肌は…ごめんなさい。赤い色しか思い出せないわ」


鮮明に浮かぶのは血飛沫、血溜まり、そして血染めの長剣。

まざまざと思い出した少女は、ひとつ身震いすると荒野の先を指差した。


「悪魔の子は死体を引き摺ってあっちへ消えました。噂では荒野の遺跡に寝ぐらを持つとか…」


ラシウスが小さな指先に視線を這わせると、リュカは真っ赤になり慌てて手を引っ込めた。

レイドは気さくな笑みで立ち上がり、がっしりとした己の腰に手を添えた。


「なるほど、これで行き先が定まった。お嬢ちゃんありがとよ」

「いえ、あの…。本当に悪魔の子を探すつもりですか?」

「ん?ああ、そうだ」

「ではもし会うことが出来たら、あの、ありがとうとだけ伝えてもらってもいいですか?」

「ありがとう?」


意外すぎる言葉に面食らう。

リュカは胸を上下し、改まった小声で言った。


「理由が何であれ、わたしはその子のおかげで命を救われたので」

「…そうか」


騎士団の者が悪魔を探している。

頭を一巡りさせれば、その目的など安易に想像がつくはずだ。

自分を助けてくれた男にすっかり安堵したのか、はたまた見目麗しい青年に思考回路が鈍ったのか、少女は信頼を寄せて微笑みかけてくる。

レイドは勿論余計な事など口にせず、笑顔を返しながら心得たと胸を叩いた。

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