■■■■の■■

津島 結武

書き始め

※この作品は一部修正を入れています。そのため、複数箇所見苦しいところもあると思われますが、ご了承ください。



 これをあなたが読んでいるということは、僕はもうこの世にはいないということですね。

 ということはない。これをあなたが読んでいても僕は生きている可能性があるし、むしろ元気にしているかもしれない。


 そんなのんきなことを言っている場合ではないのだ。

 僕はこれを書くにあたっては真面目に取り組みたい。

 これまでのエッセイのようにおどけて書くようなことはしたくないのだ。


 なぜこれを書くに至ったのか。それを君が知る必要はない。あるいは、すでに君は知っているのではないだろうか。

 何のことかわからない? それならそれでいい。わからないという姿がありのままの姿なのである。それは君が見た真実だ。そして真実は視点の数だけある。


 この遺書は別に君のために書いているわけではないのだ。ただある一人のために書いている。その人がこれを読むかどうかはわからない。もしかしたらこれを読んでいる君がその人かもしれないし、その人は一生読まないかもしれない。たとえ、僕がこの世からいなくなったとしても。


 これは哲学ではない。だから君は僕とこの作品を評価することはできない。それを理解する力はあるね?



 さて、遺書とはどのようなものなのだろうか? まずは財産関係の話をするだろう。

 まず、僕の銀行口座の残高はすべて■■■に振り込んでほしい。■■■というのは、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■だ。

 念のため言っておくが、その人は■■ではない。■■だ。これは重要なことなんだ。


 その人が誰かということは、■を知っている人ならばわかるだろう。■が最も大切に思っている人だ。そして■が最も深く傷つけた人でもある。本当に愛していた。いや、今でも■■■■■。しかし、死んだら過去形になるのだろうか? そのようなことは君にはどうでもいいことかもしれない。君というのは君のことだ。読者ではない。


 ……財産のことを話しているというのに、僕というものはつい感情的なことを口走ってしまう。

 僕の部屋にあるものは、すべて捨ててしまって構わない。と言いたいところだが、売れそうなものは売っていいだろう。特に本の一部の状態は良いはずだ。ブックオフやメルカリにでも売れば小遣いくらいになるはずだ。


 それと、絵画は■■■に■してほしい。あれを処分するのはあまりにももったいないからだ。■■■とは誰かっていうのは、もう説明する必要はないね。

 あの絵は、君らには単なる抽象画に過ぎないかもしれないが、僕がとても気に入っている絵なんだ。今の僕が唯一心穏やかであれるものがあの絵なんだ。そのような絵を、■にもらってほしい。■には幸せでいてほしいんだ。心穏やかであってほしいんだ。


 もっと言うと、本棚ボックスの上にある写真立ても君にもらってほしい。

 確か、中身の写真は同じものだったろうか? それでももらってほしいんだ。もちろん写真を入れ替えてもらっても構わない。この意味はわかるね?



 僕はこれを書きながら、とても哀しいんだ。

 これは君に読んでもらえない可能性も考慮して書いている。

 けれど、僕は確実に君に向けて書いている。

 それを読んでもらえないのではないかと思うと、とても哀しいんだ。

 読んでいなければ、この哀しみさえ伝わらない。だけど読んでくれていたら、杞憂でしかない。これは僕にとってつらいパラドックスだ。


 これは非常に書くことを迷った。けれども書かずにはいられない。

 僕は君を愛している。きっと誰よりも。そして君は僕を愛してくれた。誰よりも僕を愛してくれた。これは本当だよ。君ほど僕を愛してくれる人はほかにいない。

 でも、僕は君を裏切ってしまった。残酷な形で裏切ってしまったんだ。

 どうしてそのようなことができたのだろうか。今の僕にはまったくわからない。


 僕は君が好きなんだ。それは揺るがないことだと思っていた。正直、今でもそのようなことなどありえないと思っている。

 過去の僕が許せない。あんなことをした自分を殺したい。

 もしたった一つだけどんな願いでも神様が叶えてくれるとしたら、僕は真っ先に過去に戻ることをお願いする。そして君を一生、何があっても大切にして、守る。

 それくらい君を愛しているんだ。


 許してくれ……。あの頃の僕はどうかしていたんだ。君が僕への関心が薄れていると感じて、怖くなってしまったんだ。

 いいや、それは言い訳だろう。

 でも、つらいんだ。もう君が愛してくれないことが。

 いやだ。そんなのいやだ。君がそばにいてほしい。離れないでいてほしい。俺の前からいなくならないで。



 ……僕は弱い人間なんだ。ほかの人のように、一人で生きることができない。

 いや、そんな人はいないかもしれない。もしかしたら僕を支えてくれる人はほかにもいるのかもしれない。

 けれど、僕は君がいいんだ。君と一緒にいたいんだ。ずっとそばにいたいんだ。


 女々しい男だろう。そうだ。けれども君はそんな僕を愛してくれたんだ。

 支えてくれ。助けてくれ。

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