第11話 知る由もない未来

 だから、侯爵家で実家と戦っている時常に私は精神的に追いつめられていた。

 侯爵家を守る私に、勘当だと父が言い放った時は、震えて寝れなかったことも私は覚えている。

 もうあきらめたはずなのに、それでも割り切れない存在が私にとっての伯爵家で。

 けれど、メイリの言葉を聞いて私ははっきりと自覚する。


 ……自分の中に、まったく実家と対峙することになるという恐怖がないことに。


「ま、マーシェル様?」


 突然押し黙った私に、メイリが心配げな声を上げる。

 その声に振り返った私は、小さく笑って告げた。


「なんか、もう私は実家なんてどうでもいいみたい」


「……え?」


 私の言葉に、メイリが思わずと言った様子で声を上げる。

 しかし、その言葉こそが私の本心だった。

 何せ、どれだけ実家への恐怖を思い出そうとしても、私の頭にその頃の気持ちが蘇ることはなかった。

 代わりに蘇ってくるのは、一人の男性の存在。


 アイフォードの姿だけだった。


 本当に自分は、なんて単純な人間になってしまったのだろうか。

 そう笑いながら、私はメイリに告げる。


「私は本当に大丈夫よ。だから、実家が来た時のことを一緒に考えましょ」


「……それなら良いのですが」


 私の様子に不信感を感じながらも、メイリはそう頷く。

 そんな彼女に内心申し訳なさを感じながらも、私は思う。


 この先、伯爵家の人間が襲来してきてもこの気持ちが変わることなどありないだろうと。

 今の私にとって、伯爵家の存在はクリス以上にどうでも良い存在だった。

 後、伯爵家がどうなろうが私にはどうだっていい。

 ただ、アイフォードがこれ以上余計なことに巻き込まれなければいいのだ。

 だから私は思う。


 この先なにがあっても、伯爵家相手に私が感情的になることはないだろうと。


 ……しかし、その時の私は知らない。


 その時の自分の考えを裏切るような、想像もしない行動を伯爵家がとって来ることを。


「杞憂だと思うけど、一応念の為の準備をしておかないとね」


「そうですね」


 そうして、メイリと今後について話あう私は、そのことを知る由もなかった……。

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