第46話 自己満足
「……っ! もしかしてその姿は……」
メイリがあわてた様子で駆け寄ってきたのは、次の瞬間だった。
私の身体をあちこちさわり、怒りを隠せないといった様子で口を開く。
「許せない……。私がアイフォード様に言って……」
「必要ないわ。私が自分で、やり返すから」
その私の言葉は、淡々とした言葉。
しかし、それだけで十分だった。
メイリは何かを悟ったように、呆然と身体を震わせ、私にゆっくりと問いかけてくる。
「マーシェル様は、ウルガと一人で戦う気ですか?」
「ええ」
「……またマーシェル様は、一人で背負うんですか!」
「っ!」
そのメイリの見透かしたような言葉に、私は思わず息を呑む。
そして、気づく。
確かに、これはあの時……アイフォードを追い出した時と似ているかもしれない、と。
そう理解して、私はにっこりと笑った。
「ううん。これは私の勝手よ」
──だったら、なおさらこれは私のわがままにすぎない、そう私は理解できていた。
本当なら、最善手は別にあることを私は知っているのだ。
本当なら、これはアイフォードに確認してから起こすべきなのだから。
何せ私も、自分がアイフォードの気持ちになると自分が冷静でいられないことに気づいている。
だから、それを確認してからことを起こすべきだと、私は気づいていた。
一体アイフォードが何を望んでいるのか、それを確認してから。
けれど、そうする気は私にはなかった。
……なぜなら、確認した時点で私の独断というカードが使えなくなるのだから。
実の所、ウルガ本人の能力も、身分も決して恐るべき人間ではない。
様々なぼろを今まで出してきており、クリスに言われて私がその尻拭いを行ったことがある。
けれども、その経験から私は知っていた。
……ウルガは様々な貴族と関係のある、爆弾のような人間だと。
クリスは信じようとはしなかったが、ウルガが肉体関係をもつ貴族はクリスだけではなかった。
そして、もしウルガが暴走することがあれば、様々な貴族が手を出して来かねない。
そうなればいくらアイフォードであれ、それに巻き込まれずにはいられないだろう。
故に、ことが起きたとすれば、私は全ての責任を一人で負うつもりだった。
そして、そのためには一切アイフォードの意志を聞くことは許されない。
アイフォード自身にも、私の暴走だとそう思ってもらわないといけないのだから。
──だが理由があっても、相手の意志を聞くことなくことを進めるのは、自己満足に過ぎないのだ。
そのことを私は、アイフォードを追い出した時から学んでいた。
自分の行為が、アイフォードを傷つけかねないことを。
それでも私は止まらないと決めていた。
何より、自己満足のために。
「ごめんね、メイリ。危険なことに巻き込んで」
「……いえ、侯爵家の件でもう慣れてます。マーシェル様の無茶には」
そう嘆息し、しかし次の瞬間私を真剣そのものな表情で見つめ、メイリは口を開いた。
「ですが、今回は私は最後まで付き添いますから。……私はもう、マーシェル様から離れませんよ」
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