第45話 疲れ果てての帰宅

 汚れきった使用人服に、疲れ切った身体。

 それを引きずって、私は自身の部屋へと急いでいた。

 最初に叩いたのを除き、ウルガは、私に暴力を振るうことさえなかったが、様々な手段で私に嫌がらせをしてきた。


 ウルガが、アイフォードに呼ばれ、解放されることになっていなかったら、どれだけ続いていただろうか。

 そこまで考え、私は苦笑する。


「……まあ、これでも実家よりはましね」


 そう笑う私の顔には、疲れこそあるものの、意志は一切萎えてはいなかった。


「ここまでしたら、さすがのウルガも私のことに関してアイフォードに口を割ることはないでしょうし」


 そして、アイフォードはかなり多忙だ。

 多少違和感を感じても、調べることはできないだろう。

 屋敷内のことに関してはネリアに頼りきりの様子なのだから。

 そうなれば、少なくとも一ヶ月近くは隠せるはず。

 しかし、そこまで考え、私の顔が曇る。


「……後は、ネリアさえ言う通りに動いてくれていれば助かるんだけど」


 実のところ、私が使用人に扮装しなくても、ウルガに対処することはできる。

 だが私の存在がばれた以上、使用人という立場の方が色々と楽なのは、事実で。


 ……何より、あのウルガの使用人としてネリアがこき使われるのは、我慢ならなかった。


 だから、できれば隠し通していてほしい。

 そう考えながら、私は自室の扉をノックする。


「……マーシェル様!」


 メイリの声とともに、その扉が勢いよく開いたのは次の瞬間のことだった。


「一体何があったんですか? ネリアさんが伝言を持ってきてから、この時間まで何も起きなくて……」


 その言葉に、私は少なくともネリアが私の頼んだ通り、メイリに伝言をしてくれたことを私は理解する。

 ……肝心なのは、これからだ。

 そう覚悟を決めた私は、メイリに問いかける。


「……それで、それ以外には何もなかった? ほかにネリアに言われたこととか、アイフォードが来たりとか」


「い、いえ? 何もありませんでしたが」


 そう告げたメイリに、私は笑う。

 これで、ようやく計画を進めることができるとそう判断して。


「わかったわ。とりあえず、扉を閉めて」


「……はい」


 その私の指示に、メイリが不服そうではありながらも素直に従う。

 その表情は、何よりも雄弁に早く何が起きたか教えてくれと語っていて。

 部屋に入った私は、その要求に答えて口を開いた。


「ウルガが、この屋敷にやってきたわ」

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