第25話 新しい目覚め

 目を覚ましたとき、私の目に入ってきたのはまるで見覚えのない景色だった。


「……どこ、ここ?」


 その景色に、私は呆然と呟く。

 しかし、直ぐにここに来るまでのことを思い出した私は、自身が寝ているベッドから跳ね上がった。


「嘘、私!」


 そう思わず叫んだ私の脳裏に蘇ってくるのは、ここに来るまでの経緯だった。

 といっても、正確にここに来るまでのことを覚えている訳ではない。

 私が記憶しているのは、最後迎えに来たあの人に導かれるまま、馬車に乗ったこと。


「私はあの後、眠くなってしまって……」


 そこまで思い出し、私は自分の顔から血の気が引くのを感じる。

 償うためにこの場所にきたはずなのに、私は一体何をしているのだろうか。


 扉が叩かれたのは、そんな時だった。

 反射的に身構えた私だが、次の瞬間聞こえてきたのは、年老いた老婆の声だった。


「失礼します。部屋に入らせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「あ、その、はい」


「ありがとうございます」


 私が了承すると、ゆっくりと扉が開く。

 次の瞬間現れたのは、使用人だと分かる衣装を身に纏った老婆だった。

 一体誰なのかも分からず呆然とする私に対し、彼女は優しくほほえんで口を開いた。


「お初にお目にかかります。私はこの屋敷で使用人をしております、ネリアともうします。何かあれば、気軽に名前を呼んでくださいな」


「あ、その、よろしくお願いします」


 そのネリアに、私は困惑しつつも、何とかそう告げる。

 今まで私の中の老人のイメージは厳しい家宰のコルクスだった。

 けれど、目の前のネリアは正反対な優しそうな雰囲気をまとっていた。

 その雰囲気に少しの間呑まれていたが、私はふと気づく。

 何よりも一番に聞くべきことを聞けていないことに。


「少しよろしいですか?」


「はい? どうかいたしましたか?」


 にっこりと優しそうにこちらを見るネリアへと、私は問いかける。


「……ここはどこなんですか」


「まあ」


 そう問いかけると、ネリアは少しだけ目を大きく見開き、軽く頭を下げた。


「これは、肝心なことをお伝え忘れていて申し訳ありません」


「いえ。でも、気を失う前にこんなお屋敷をもつ方と会った記憶がなくて」


「あら、そんなことありませんよ」


 私の言葉に、にっこりと笑ってネリアは口を開いた。


「だって、ここは準男爵、アイフォード様のお屋敷なのですから」


「……っ!」


 私がようやくあることに気付いたのはその時だった。

 ここは、寝込んだ私を休ませるために運び込んだ貴族の屋敷などではない。


 私を迎えに来た彼──アイフォードの屋敷であることを。

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