沈黙に積雪
判家悠久
深雪
これで2度目になる。
俺は、明朝冷え込む風雪が強い、何処をどう進んでも深雪しかない道なき道を進み、青森市郊外の準限界集落の戸来町へ深く雪中行軍をしていた。
朝出がけの気象アプリは今季最低気温に豪雪注意報が出ていた。それは毎度かだったが、それは只管最悪に向かっていた。
通勤経路は二車線に歩道有りも、冬季日頃のやるせない除雪で辛うじての道路の雪は、歩道にどんどん積まれて。車道を申し訳なく歩くしか術がなかった。その車道にしても、往来あったかのタイヤの微かな轍に歩み寄り、長すぎる程のタイトロープを渡るかの芸当だ。
表の幹線道路沿いの実家から戸来町へは軽く7kmはある。俺は車の免許は持つものの節約で自らの軽自動車も無い。もっとも冬季になれば、車両同士が辛うじて掠めないかになるのだから、接触事故を避けて、どうしても歩いて進んだ方が職業柄一番無難な選択だ。
準限界集落の戸来町に伸びる道路は、ただ曲がりくねり、陸橋を3度超えて、やがて小山中腹の戸来市営墓地麓の丘陵地帯も上がる事になる。
そう、その2度目の陸橋でまた悲劇は起こった。
馴染みのあるあいつの白いメルセデスAMG CLA 45が戸来町側の中腹で見事に上がりきれずスリップのまま、無残に斜めで転がっていた。
積雪は一晩で50cm。何だ膝迄の長さかになるが、これが風雪と続いては、車も何も、除雪車がなければ市内の何処であっても直ちに遭難する。
JAFが有るだろうは、道路が深雪の中に埋もれて、同様の案件が無ければで、時間が掛かっても来てくれるかもしれない。ただ希望に縋るものでは無いと強く言える。
それならば発車する前に分かる事だろうも、雪はゲリラ豪雨の様に一気に降るものでは無い。抜けられるとの軽い気持ちがあれば、この様に積雪に泥濘み悲惨な目に遭う。
俺は、戸来町から脱出失敗しては既に車体に積もったであろうの30cmの雪を払い車中を覗き込んだ。確かのあのありさんとはるこが、必死の形相のままスマートフォンを手にしたままシートに深く沈んでいた。
それはそうだろう、青森市内の最適気温はマイナス10度でも、戸来町は小山郡の冷気を一気に浴びる中腹に麓は、体感気温マイナス25度に達しようかだ。
それではあのメルセデスであっても起動不良になる事だろう。何より、ありさんがカスタム車で1000万円と豪語していたいた通り、雪国なのにバンパーの車高が10cmやっとあるかでは、積雪を延々ブルドーズ出来る訳もなく、陸橋で程なく撃沈するのは分かりきってないかだ。
いや、それは例外かも、どんなスノータイヤを装着しても、積雪及び路面凍結で陸橋を上がれず挫けるのはままある。放って置けず、俺も後続から遭遇する車両とで、何とか上がらせるか下ろすか人力で寄せ切る。これは雪国の原則だ。
ただどうしても巡り合わせはある。
そしてこの白いメルセデスが、推定死因凍死で死ぬのは、最後迄YouTubeでの実況トライ慣れとしか言いようがない。
俺は吐く息も凍る中、忙しくも、スマートフォンで110に通話した。
「あっ、警察ですか。戸来町行きの、豆柴陸橋の戸来町側で、白いメルセデスがスリップのまま男女二人凍死しています。ええ、多分警察にもヘルプの電話したかと思いますが、そう履歴3時15分迄のそれかのそれです。このまま俺も実況見分に付き合うべきでしょうけど、市の除雪車がここいら全般いつもの通り後回しになるので、ここで待っていたら俺が死にます。何かあったらマウトストア戸来町店店員の俺城田実淳迄来てください。俺も死にたくないですから。もっとも除雪しないと絶対辿り着けませんから、後はお願いしますね」
通話を終え、俺はただ必死だ。次は俺かの危機がそこにある。この深雪をひたすら踏み越えた向こうにマウトストア戸来町店が有る。どうしても生きる為に、並並ならぬ一歩を戸惑わなけばまた到着出来る筈だ。
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