第131話 そして復讐は果たされた




『私たちは調査をはじめた。


 当時、アハトがフォルセイン王国を訪問した理由は商用。《霊薬》の仕入取引だったと記録されていた。

 ところが商会に問い合わせると、過去にフレイムローズ家と取引したことはないというの。商談は行われていなかった。それなのに、帳簿には少なくない取引額が記載されている。

 アハトはフォルセイン王国で何をしていた?

 大金は何に使われた?


 不審な点は他にもあったわ。


 同じころ、フレイムローズ家の庭の一角に薬草園が造成されているの。

 妻の希望を叶えるためとアハトが指示したそうだけれど、ノインが記憶する限り、彼の母が薬草に興味を持ったことはない。

 薬草園には百種類以上の苗や種が持ち込まれ、新しく雇われた薬師の男が管理していた。

 幼いノインは男の目を盗んで、何度か薬草園に忍び込んだ。そのとき盗み出した種を調べると、クロユリソウという猛毒植物の種が含まれていたわ。

 ノインの母はクロユリソウの毒をあおって死んだ。

 彼女の死と共に薬草園は潰され、薬師の男もどこかへ消えてしまった。


 調べれば調べるほど、疑念は確信に変わっていった。

 アハトがエルインを殺した。

 そのうえ前妻も手にかけている。

 あの男は二人を殺し、何食わぬ顔で私に求婚したのよ。最愛の人を殺した男だとも知らず、私はそれを承諾した。


 毎晩悪夢にうなされるようになったわ。

 夢の中で、アハトは両腕に真っ赤なバラの花束を抱えている。よく見るとそれは花束じゃなくて、殺されたエルインと前妻の首なの。私は怯えて振り払おうとする。あるいは憤怒に駆られて飛びかかろうとする。どちらにせよ私は彼から逃げられないし、打ち倒すこともできない。

 夢の最後に、アハトは笑ってこう言うの。


「そのことで『君を』恨んだことは一度もない」



  

 私とノインはアハトを告発しようとした。

 血族会議にかけて王国に引き渡し、王族殺しの裁きを受けさせるのよ。

 けれど、そうするには証拠が足りなかった。

 彼を追い詰めるだけの決定的な証拠が。


 そうしているうち、事態は変わってしまったの。


 あなたの十五歳の誕生日。

 アハトはあなたに赤いドレスを贈ったわね。

 ドレスだけじゃない。ネックレスにブローチ。指輪も。

 子供の誕生日にプレゼントを用意したことなんて一度もなかったのに。

 そして、あなたを見るアハトの目。

 私はその目に見覚えがあった。

 それから間を置かずノインから相談があったわ。「父がフラウの寝室を覗いているようだ」と。職人を呼んで壁に手を入れさせていたらしいの。

 でも、彼は見ているだけで満足するような人間じゃない。


「二人きりで別荘に行こう」


 アハトに誘われて、来るべき時が来たと思った。あんなに機嫌のいい彼を見るのはひさしぶりだったわ。

 だから、すぐにわかった。

 ──私は別荘で殺される。

 エルインや前妻と同じように。


 その前に私があの人を殺す。


 わざわざ「二人きりで」と提案したのは、自分で手を下すためでしょう。誰も信用していない彼らしいわ。おかげで彼自身の守りも薄くなる。こんなチャンスは二度とない。

 ノインは反対した。別の方法を探すべきだと。

 私は彼を説き伏せた。「フラウを守るためにはこれしかない」と。

 残酷なことをしたと思う。彼が断われないと知っていて、私のことまで背負わせた。

 でも、ノインなら──

 きっと最後までやり遂げてくれる。




 フラウ。

 これを読んで、恨んでいることでしょうね。

 あなたたちを置いていった私を。

 ノインに手を汚させた私を。

 それでも、あなたにはすべてを知ってほしかった。

 だってあなたは私とエルインの娘だから。


 エルインが死んだとき、私の魂も一緒に死んでしまった。喜びも悲しみも感じない。からっぽの抜け殻になってしまった。

 復讐だけが、私に感情を思い出させてくれた。

 それもあと少し。

 あともう少しで終わる。

 アハトが死ぬ瞬間を目に焼きつけて、笑いながらあの世に行くわ。


 もう出かけなくちゃ。


 フラウ。

 リオン。

 いとしい私の子供たち。

 あなたたちが幸せな道を歩みますように。

 大切な人と共に生きられますように。

 

 愛してるわ。

 愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。ずっと。

 さようなら。


 フィオナ』




 そして──

 彼女の復讐は果たされた。

 私は深く静かに息を吐き出しました。



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