できない、やれない→できる、やれる - 22日目 -
こんな日が毎日続けばいい。昨日そう思った矢先、その願いはたった一日で打ち砕かれた。
「はい、じゃあ練習といこうか」
「なんでだよ。体育の授業あったじゃねぇか」
「それはそれ、これはこれ、な」
「昨日一昨日って練習できなかったからね」
慎、佐藤に連れられて昼休みなのにもかかわらず球技大会の練習をさせられていた。ちなみにご飯に関しては午前中の休み時間に済ませている。食べとけって言われたから仕方なくだが。
おまけにこっちは体育の時間、なぜか知らんが持久走をさせられたので人の倍は疲れている。駄々こねてやめてもらえるのならそうしているが、そんなんでこの二人が引くわけがないのでもう諦めて練習に参加している。
そしてボールの投げ方だが
「5R5」
「4L20」
こんな風に佐藤に言われてボールを投げる。ちなみに前者の数字は距離、後者は角度、Rは右、Lは左だ。他の人からしてみれば暗号だがわかる人にはわかる。そこで次の手段として
「1110」
「7035」
これでも投げられるようにしている。これわかったらすごいよ。考えた佐藤もすごいがやるほうもやるほうだ。しっかり数字を聞かないと頭こんがらがってわからなくなる。ちなみに最初言ってたのは右10度距離1、次言ってたのは左35度距離7だ。二進数なんて使うなよ、普通に目が見えていてもわかんねぇのに。
「完璧だよ光ちゃん、それじゃ次行こうか」
「まだあんのかよ」
「足音と振動を聞いて投げられる?」
無理無理、俺神じゃねぇぞ。
「無茶言うな。そんなの絶対音感でも地獄耳でも無理だ」
「絶対音感は関係ないけどな。でも俺もそれはさすがにきついと思うぞ」
「いや、光ちゃんならできる!」
俺と慎が否定しているのに佐藤はやる気だ。
「その自信はどこから来てんだよ」
「自信じゃなくて期待だよ。僕は光ちゃんの可能性に期待してるんだよ」
「完全にコーチだな。監督、何とか言ってくれ」
「光ちゃん、やれ」
「早いな、手のひら返し」
そんなこんなで二人の指導の下、俺は昼休みいっぱいこれでもかという数のボールを投げ続けた。ああ肩いてぇ、腹減った。
× × ×
放課後授業が終わって帰る流れになる。部活をしている人もいれば明後日に控えた球技大会の準備をする人もいる。明日が祝日だからだろう。
「みんな、またね」
更科が車に乗って帰っていく。その流れで俺も帰ろうとした。
「すみません。今日おうちにお伺いしてもよろしいですか? わたりんさんとココさんも空いてますか?」
そう言ってきたのは日向だ。うちに何の用だと思ったが
「私は大丈夫だよ、わたりんは?」
「うん」
賛成しているがこの二人も心当たりがないらしい。ほんとに何のことだろうか?
「私も全然オッケーよ。それじゃあおうちに帰ってから話を聞きましょうかぁ」
もう連れていく流れになってるし。しかも『うちに着いてから』じゃなくて『うちに帰ってから』って言ってるし。それじゃ俺の家=みんなの家ってことになるだろ。ほんと何とかしてくれうちの母親を。
家に着いて全員が席につく。今この場にいるのは俺と母親、渡、一条、日向だ。
「ありがとうございます。このような場を用意してくださって」
「いいのよぉ。私とみんなの仲じゃない」
そんなに深かったっけ? うちの母親とみんなの仲って。まぁいいか。
「ここに集まっていただいたのは、アオさんのことです」
「またなんかあるのか?」
「コラッ! 鬱陶しいみたいな顔すんじゃないの」
母親に軽く頭を叩かれた。そんな顔してたか? 俺にはわからんがそうだとしたら申し訳ない。
「そんなに大きなことじゃないです。あ、でも小さなことでもないですね」
「どういうこと?」
大きくもなく小さくもないこと、はて? 一条の言う通りさっぱりわからん。
「実は明後日、球技大会の日は、アオさんの誕生日なんです」
「え? ほんと?」
へぇ、更科の誕生日って明後日なのか。もう過ぎた話だが本田と日向がこの日にこだわっていた理由がよくわかった。球技大会だけじゃなかったのか。
「はい。なので明日、アオさんの誕生日プレゼントを買いに行こうと思っていまして」
「私も行きたい!」
「なんだ、それなら私にお任せ! 車なら出してあげるわよぉ。あ、そうだ!」
あ、そうだ! じゃねぇよ。
「なんか嫌な予感がするんだが」
「球技大会終わった後うちでパーティーしましょうよぉ、球技大会後の打ち上げって称してね」
「いいんですか?」
よくねぇよ。
「よくねぇよ」
思っていたことがそのまま声に出た。
「いいわよぉ。こうなったら明後日に向けて準備しないとねぇ。頑張んないと!」
「ありがとうございます!」
「みんなに聞いて確認してみます」
俺をよそに話が進んでいく。もうこうなったら誰か反論してくれ。俺じゃどうにもならん。
「みんな大丈夫みたいです」
俺の望みが・・・。てか今部活中なのに何で返信されるんだよ。サボってんじゃねぇのかあいつら。こうなったら最後の頼みの綱しかない。
「ただいまー、あれ?」
ちょうどいいタイミングで帰ってきたきた頼みの綱。もうかえでしかいない。
「おかえりー」
「かえでちゃん。お邪魔してまーす」
「心愛さん、奏さん、それに雛さん」
「ちょっと待って! かえでちゃんも私たちのことはあだ名で呼ぶように! 私はココ、渡さんはわたりん、日向さんはひなっちね」
かえでにもやらせるのかよあだ名呼び。ということは
「あ、かえでちゃんのあだ名も考えてあげなくちゃ」
やっぱりそうなりますよねぇ。一条がかえでのあだ名を考えているうちに言っておこう。
「かえで、頼みの綱はお前だけだ」
「は? 何のこと?」
「実はねぇ―――」
母親がひとしきり話すと最後に
「かえではどう? うちでアオちゃんの誕生日パーティー」
頼むぞかえで。もうお前しかいない。
「お母さんがいいなら」
「裏切者め」
「だから何のこと?」
頼みの綱が切れた。なんでうちなの? 他じゃダメなの? 外食でもいいじゃん。そんな俺の考えをよそに日向と渡、母親はパーティーの話を進めている。もうダメだ。どうにもならん。
「では明日、お願いします」
「オッケー。練習終わってからね」
どうやら球技大会の練習をした後、解散の流れを装って更科を帰らせた後、残った俺たちが母親の車に乗って、プレゼントなりパーティー道具なりを買いに行くっていう流れになるようだ。
「決まりました! かえでちゃんのあだ名は、『かえかえ』!」
「まだ考えてたのかよ、てかそれなんだよ、鳴き声いてっ!」
なんか二方向から攻撃された。一つは頭、もう一つは足だ。頭叩かれ足踏まれ、俺別に間違ったこと言ってないと思うが。
「私が考えたかえでちゃんのあだ名! 鳴き声じゃないよ!」
「えっと、わ、私は、それでいいと思います」
「ほんと? じゃあ決定!」
かえでか、俺を攻撃したもう一人って。どっちがどっちを攻撃したか知らんがどっちもいてぇ。これ加減してねぇな。
「それじゃあそろそろ帰ります」
「送ってくよぉ」
「いいんですか? ありがとうございます」
「じゃあ光ちゃんとかえかえはお留守番よろしくねぇ」
早速使ってるよ。じゃあ俺も使ってみるか。みんなが出ていった後
「なぁかえかえ。なんで今日帰ってくんの早いてっ!」
「お兄ちゃんはそう呼ばないで! 恥ずかしいから」
ティッシュ箱で叩くなよ。あんま入ってなかったからかそんなに痛くなかったけど。
「今日と明日で休み入れ替わってるからに決まってるじゃん」
「いや知らねぇよ。ん? ちょっと待て」
かえでが言ったことで思ったことがある。
「かえでがそうなら他のやつもそうなるんじゃねぇか? まして明後日なんか部活できねぇし」
「何言ってるの?」
「明日買い出しに行くって言ってたけど今日いねぇメンバー、明日部活あんじゃねぇのかってことだよ」
「そんなの、私にわかるわけないじゃん」
「かえで、今日当たり強いな」
「だってせっかくの休みなのに部活っておかしくない? しかもそれ言われたの今日。予定丸潰れだよ」
「確かにそれはお疲れさん」
としか言えないがかえでのようなことが慎や他の人にも起こっていそうで怖い。もしそうなったらその人抜き・・・、いや、そうしたら一条や渡、日向が怒るな、予定を遅らせることになるのか? これじゃいつもの平日と変わらないじゃん。なんで休日なのに一日中外にいなきゃなんねぇんだよ。かえでの言うことがよく分かったわ。
「仮に部活なかったらかえでは何するつもりだったんだよ」
予定丸潰れと言っていたあたり何かしようとしていたのは分かる。気になったので質問してみると洗い物をしながらかえでが答える。
「・・・みんなと一緒に、お買い物」
すすぐ音とかえでの声が小さかったのであんまり聞こえなかった。だから
「あっそ」
こう答える。何を聞くにしても今日はかえでの機嫌が悪いのでもうやめておこう。グーパン飛んで来る前に。
明後日は球技大会だけかと思ったがその後の行事が増えた。それもどっちかというと後のほうが重要。球技大会ははっきり言って前座だ。だからと言って手を抜く気はない。約束しちまったもんな。明日明後日は忙しくなりそうだ。
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