第61話 白い犬だと思ったら、実は。

 目の前のデカい犬たちを見たら、キャンプ地に連れてきた犬たちは『小さい犬』と言うべきなんだろうけれど……デカさが普通じゃない!

 顔を強張らせながら、彼らを見つめる。

 大きさはお稲荷様くらいありそうな白い犬。2匹ともが私をジッと見つめている。


「わふっ」

「わんわんわんっ!」


 固まっている私をよそに、柴犬サイズの犬たちは大きい犬たちへと駆けていく。


「……まさか、親子?」


 甘えるように大きい犬に身体を掏りつけている様に、そう思わざるを得ない。その様子に、少しだけホッとする。


 ドサッ


 前にいた蛇をくわえていた犬が、地面にソレを落とした。


「グルルルル」

「ガウッ」


 柴犬サイズたちが、蛇に唸り声をあげ、噛みついた。


「あ、もしかして、コイツが」


 この子たちを襲おうとでもしたのだろうか。それを彼らが退治したと。

 大きな犬が鼻先でズズッと私の方へと蛇を押し出した。


「え?」


 私が首を傾げると、もう少し前の方へと、蛇を押してくる。


「……まさか、これ、私に?」

「グルルルル」


 唸っているというよりも、喉を鳴らしているように聞こえる。機嫌が良さそうな感じ。

 しかし、このデカい蛇をどうしろと。

 困惑している私をよそに、ズイズイと前に押し出してくる。これは受け取らないと、ずっとこのままか。


「あ、ありがとね」


 私はタブレットで『収納』することにした。『売却』とかしたら、魔道コンロを買うための足しになるかもしれないし。

 スッと音もなく蛇が消えたものだから、犬たちは驚いて、唸りながら腰をあげて周囲を見回しだした。


「あ、ご、ごめん、ちゃんと貰ったよ~」


 そう言いながら、今度は私の目の前に出して見せる。


 ――うえっ。なんか、生臭い。


 吐き気を抑えながら、笑顔を浮かべてみせると、犬たちはホッとしたのか、唸るのをやめた。

 私はもう一度蛇を『収納』して、犬たちの方へと目を向ける。彼らは大人しくこちらを見ていたが、こちらに近寄ることもなく、しばらくすると静かに立ち上がり、去っていった。

 私は慌てて彼らの姿をタブレットのカメラに映し、『鑑定』をしてみた。

 一番大きな犬は。


*****


種族:ホワイトウルフ(フェンリルとホワイトウルフの混血)

性別:オス

年齢:83才


備考:聖属性・風属性の魔法が使える


*****


 犬だと思ってたけど、狼だった。

 それだけでも驚きなのに、『フェンリル』なる言葉に、あんぐり。フェンリルって、ファンタジーの定番の魔物なんじゃないの? あれ? 魔物でいいんだよね? 

 それに、年齢、何、あれ。私より年上? いや、そんな長寿なの?

 その上、魔法が使えるって、何。私にはできないのに。


 ……私は彼らの姿が見えなくなるまで、しばらくそこに佇んでいた。



 そして、今更ながらに気付いた。

 稲荷さん以外で、この場所にやってきたのは、あの子たちが初めてだったことに。


           + + + + + + + +


 フェンリルを期待していた方、ごめんなさい。^^;;;

 ハーフでもありません。^^;;;;

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る