第59話 犬を助ける

 ドアを開けたまま、ログハウスに入り、キッチンのカウンターに置いておいたカウベルに手を伸ばした時、激しく鳴く犬らしき声が聞こえた。


「え、え、何」


 慌てて腰にカウベルを下げ、ウッドフェンスに戻り、外を見る。

 激しく吠え続ける犬は、何かに目を向けているようで、背後のウッドフェンスにもたれかかっているもう一匹を守っているようにも見える。


「え、何、やっぱり犬?」


 吠えている犬よりも、くったりしている犬のほうが気になった私は、急いで駆け寄り抱えあげる。大きさは柴犬くらいか。


「大丈夫!? え、死んでないよね?」


 声をかけても、うんともすんとも反応しない。


「息はしてる、ここに置きっぱなしってわけにはいかないか」


 血は出ていないようで、ただ気を失っているだけかもしれない。

 何かに向かって唸り続けながらも、私の手の中の犬が気になるのか、チラチラと目を向けてくる犬に思わず「……あんたも来る?」と声をかけてしまった。


「くぅ~ん」

「ついといで」


 ここに何がいたのか気になるところだけど、元気な方の犬が後ろを気にすることなくついてくるので、もう大丈夫なのかもしれない。

 とりあえず、荷物置き場になっている小屋にゆっくりと横たえる。


「ちょっと、古いバスタオル持ってくるか……きみ、そこで一緒に待ってなさいね」

「わっふ!」


 私の言葉がわかるかのように、返事をしたかと思えば、横たわっている方の顔を一生懸命にグルーミングし始めた。うん、かわいい。

 私はログハウスの方へと向かう。


「血の匂いはなかったから、怪我はしてないだろうけど……万が一もあるから、薬箱と……って、人の薬とか効くのかな。ていうか使っていいの? あと水? バケツは飲みにくい? あー、風呂桶使うか」


 ぶつぶつ言いながら、古いバスタオル2枚を肩にかけてから、薬類を入れているジッパー付きの大きなビニール袋を探す。

 これには基本、風邪薬と頭痛薬、絆創膏に消毒薬の浸っている脱脂綿(看護師さんとかがよく注射器を打つ前に塗るヤツ)、それに私にとっての万能薬、某メーカーの軟膏を入れている。この山に来て、時々できる切り傷が、一発で治ってしまうから、不思議だ。

 風呂場で風呂桶を手にすると、キッチンでお水を入れて、零さないようにとゆっくりと小屋へと向かう。

 行ってみると、横になっていた犬が目を覚ましていた。身体をおこし、こっちをジッと見ている。


「……あ、よかったぁ」


 もう1匹が嬉しそうに尻尾を振りながら、私に駆け寄ってきた。

 ずいぶんと人懐っこい犬だこと。まさかの飼い犬?


「ちょ、ちょっと危ないから、離れて」


 小屋についてみると、大人しく私を見上げている。いや、尻尾が盛大に揺れているから、超ご機嫌なんだろう。


「ちょっと傷がないか見るから、大人しく寝てくれるかな~」


 私の言ったとおりに、すぐに目の前で素直に寝っ転がる姿に、私の言葉、ほんとにわかっているんじゃないかしら、と思った。

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