第58話 横穴を掘るのは、意外に大変
結論で言えば、『収納』のバージョンアップは出来なかった。
ちゃんと、それなりにKPは貯まってはいたのだ。貯まってはいたのだが……バージョンアップに必要なKP程ではなかった(次に上げるには10万KPが必要だとメッセージが出た。がっくり)。
仕方がないので、『タテルクン』のメニューを探したが、斜面に横穴を開けて作るような貯蔵庫はなかった。
「掘るか」
腕を組みながら、ウッドフェンスを背に斜面を見上げる。
さすがに、スコップでは掘らない。『ヒロゲルクン』のメニューに、『穴掘り』があったのに気が付いたから。
他にも『地固め』なるメニューもあった。たぶん、これ、道を作る時に使えるんだと思う。今のところ、舗装するつもりもなかったから、未だに道は石はゴロゴロ、雑草は生えまくり。
とりあえず、わざわざ出入り口のところから回り込むのは面倒なので、背後の3メートル分のウッドフェンスを『収納』した。ちょうどログハウスと小屋の間のスペースがあった。これなら、物を取りに来やすそうだ。
「さて『穴掘り』行けるかな。ぽちっとな……す、少なっ!?」
目の前で消えた土の量は、自分のスコップ1回分くらい。
「え、これ、延々と続けるの!?」
そう叫びながらも、ここまで来たら、やる一択しかないんだけど。
「もう~! 『穴掘り』! 『穴掘り』!」
叫ぶ必要はないんだけれど、叫ばずにはいられない、この悔しさ。
朝からぶっ通しでやり続けたら、お昼過ぎには私一人が両手を広げるくらいの大きさの横穴が出来ていた。連続使用したせいなのか、気が付けば1回あたりの土の量が、少しだけ増えてきていたからかもしれない。
掘った面は、まさにスコップで削ったような跡。これを『地固め』してみる。
「ほ~ら、この通り」
つるりとした表面に早変わり。手で撫でて、冷たい土の感触にニヤリとする。
しかし、これがどれだけの強度があるのかは、わからない。念のため補強したいけれど、どうやったらいいものやら。
それと、出来上がった横穴を、そのまま開けっ放し状態というわけにもいかない。これだけじゃ、貯蔵したい物を置けないし。泥棒が来るとは思えないけれど、野生の動物とかが入り込まないとも限らない。
「うーん、完成するまでは『小屋(床が土)』で蓋できないかな」
サイズ感的にはいけそうな気がするんだけど。
こういう時にタブレットの機能のありがたさを痛感する。
普通じゃ、簡単に作ったり、移動したりなんてできないもんね。
「うん?」
何とはなしに視線を感じて、周囲を見渡す。
こんなところに、誰かがいるわけもないのに。
「気のせいかな」
首を傾げながら、腰に手を当てて気付く。すっかり、カウベルを下げるのを忘れていた。
私はカウベルを取りに、ウッドフェンスの中、ログハウスの方へと戻るのだった。
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