山での生活、冬ごもりに備えて

第51話 『魔道コンロ』欲しい!

 ログハウスはテントを張っていた場所へ移築した。

 簡易トイレと風呂小屋はそのまま残してある。簡易トイレは畑のそばに、風呂小屋はログハウスの裏手に移動した。ログハウスのお風呂もいいんだけれど……実は風呂小屋の方が広くて、窓が大きいのだ。たまには、夜空を見ながらのお風呂もいいかな? と思って。

 

 そして、ログハウスで生活を始めて1週間。

 やっと、落ち着いた生活を始められた気がする。ベッドはまだ寝袋だし、ミニコンロで調理しているけど。

 テントでの生活も悪くはなかった。

 でも、やっぱり、ちゃんと室内にいられるのは、かなり安心感が違うことを実感した。

 一応、イグノス様たちに動物は来ないようにしてある、と言われても、不安は不安だ。

 そういえば、あちら側から来られるのは稲荷さん(お稲荷様)だけだとしても、こっちの世界の人はどうなのか。今までは誰も来たことはなかったし、そもそも、あの道ともいえない道を、誰かが上がってくるとも思えない。

 むしろ、私の方があちらの村なり、町なりに行かないとならなくなっている。


 なぜならば『魔道コンロ』なるものを手に入れたいのだ!


 元々は、ログハウスが出来た時に、キッチンのコンロのことを稲荷さんに相談したのが始まり。

 今まで固形燃料か焚火で料理してた、といったら、唖然とされてしまった。

 さすがにガスコンロをこちらに持ってきたとしても、ガスは来てないし、プロパンガスのボンベを私みたいな素人が繋げるとか無理だろう。一人暮らし用のIHのクッキングヒーターもあるようなのだけれど、今持っているポータブル電源じゃ、たぶん使えないだろう。

 鍋用の小型のカセットコンロも、あるにはあるけど、毎回ガスボンベを買いに行かなきゃならないのが面倒、なんて話してたら。


「それでしたら、魔道コンロなどいかがです?」

「へ?」

「元々は冒険者用に開発された物ですが、こちらでも裕福な家なんかでは使われていたはずですよ」

「ぼ、冒険者……」

「ええ、ほら、魔獣とか狩ったり、盗賊もいますから」

「え、え? そんな物騒なのもいるんですか!?」

「あ」

「あ、じゃないですよ!」


 とりあえず、この山には、大型の獣はいても、魔獣や盗賊はいないとのこと。獣除けのカウベルがあるから大丈夫、と、稲荷さんは説明してくれた。

 確かに約1か月住んでみて、それらしいモノとは遭遇してないから、稲荷さんの言葉を信用するしかない。

 まぁ、それはそれとして。


「それって、私でも使えるんですか」

「なんか、原動力になっているのは『魔石』らしくて、それがあれば、魔力の少ない者でも利用できると聞いたことがありますよ」

「……稲荷さん、なんでそんなこと知ってるんです?」


 聞いても、ニヤリと笑うだけ。

 その目つきのせいで、悪者にしか見えないんですけど。


「まぁ、そこそこの規模の村だか町だかで売ってるはずですよ?」


 そう言われれば、人里に向かうのは必定。

 どういった人種がいるのか、全然、予想がつかないけれど、まずは、山を降りられるようにしないと駄目だ。

 稲荷さんが帰ってから、タブレットの『ヒロゲルクン』で地図を開く。

 フタコブラクダのお尻の方がキャンプ地で、頭の方まで細い道があることになっている。湧き水のあたりまでは、道が少し太くなっているのは、私の努力の賜物である。実際にそこまで行くと、その先に道があるようには見えないけど。


「草刈り機の活躍確定だよね」


 しかし、もう11月の初め。まだあちらでも雪が降るような寒さではないけれど、こっちの季節も読めない。できる範囲で草刈りを進めるのがいいだろう。ただ草刈りだけであれば、前回のペースから4、5日もあればなんとかなるような気もしてくる。 


「おっし、頑張るぞっ!」


 ちなみに。

 洗濯機はないらしい。

 それを知って、ポータブル洗濯機を速攻で買った。かなり便利である。



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