第38話 タブレットで出来ることが増えていた(1)
泥だらけ、汗だらけになってしまったので、サクッと汗を流しに風呂小屋へ。
朝風呂ならぬ、昼風呂に、のどかな気分になる。小さな窓を開けると、涼しい風とともに自然の緑の匂いが漂ってくる。
「そういえば、テント裏の伐採、どうしようか」
山の斜面にそって段々と上っていく深い森。浅い部分の若木はけっこう伐採してしまった気がする。そろそろ、もうちょっと太い木も伐採しておきたいところだ。
確か、里山、だっけ。そういう環境を作っておいた方が野生の動物が生活圏にはやってこないはず。
そういえば、キャンプ地には野生の生き物たちが来ないようにしてくれてるって、イグノス様たちが言ってたけれど、あの湧き水までの道は大丈夫だったんだろうか。道づくりの間は、草刈機の音が響いていたから、寄ってこなかったかもしれないけれど。
すっきりした私は、Tシャツに七分丈のパンツに着替えて、外に出る。
「今日はもう一仕事したし」
お茶をいれようと、ポリタンクからクッカーに水を入れて、火にかけた。
「いつまでも、固形燃料ってわけにもいかないよなぁ」
早いところ、ログハウスを作りたいんだけれど、やっぱり素材集めが厳しい。
稲荷さんからもらった煎餅の入っている袋を手に取り、ついでにタブレットも抱えると、折りたたみイスに座る。
ばりりっと、小気味いい音が響く。醤油の味がしみてて美味い。
「ん~んん~♪」
適当な鼻歌を歌いながら、タブレットの電源を入れる。
――これ、ほんとに充電不要なのね。
こっちに来てから、一度も充電していない上に、電源も落ちていない。どういう仕組みになっているのかわからないけれど、なんか凄い。
すると、前に『収納』のダウンロードが可能になった時の通知のように、画面上のバーにメールのようなアイコンが点滅している。
「今度は何かな」
アイコンをタップする。
「うん?『鑑定アプリ』? もしかして、あのファンタジーな世界のアレ?」
ダウンロードに必要なのは2000KP。でも、『収納』のバージョンアップやこの前の湧き水のところで、ほぼ使い切ってるはずだから、ダウンロードも何も出来ないんじゃ。
確認のために『ヒロゲルクン』を開いて、残高を確認してみたら。
――なんで、1万超えてるの?
ゴミを『収納』で捨てても、大した数値にならなかった。
え、もしかして、さっきの人工池のせい? いやいや、それにしたって、極端でしょ。
「あー、もしかして、またイグノス様のご褒美的なやつ?」
何をもってご褒美なのか、ちょっとわからないけれど。
「せっかくですからね、大事に使わせてもらいましょ……ありがとうございます、イグノス様」
両手を合わせて拝んでおいた。
* * * * *
イスに座って拝んでいる五月の周りには、青や白の光の玉がふよふよと浮かんでいる。
『せいじょさま~』
『せいじょさま~』
しかし、彼らの声は聞こえない。
『みずはきれいにしなくちゃね~』
『そうだ、これのみずじゃ、せいじょさまのおやくにたてない~』
『おいしいみずにしなくちゃね~』
『まりょくのたっぷりはいった、いいおみず~』
多くの青い光の玉たちはご機嫌で、人工池のまわりを飛んでいる。
精霊たちの想いのこめられた水は、浄水器いらず。
そしてキャンプ地に精霊が増えれば増えるほど、KPはどんどん増えていく。
聖女の力の及ぶ範囲が広がれば、精霊の受け入れられる範囲も広がっていく。
当然、そんなことになっているとは、五月はまだ知らない。
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