第14話 異世界でソロキャンプ(3)

 1週間のソロキャンプ。意外に楽しかった。

 お稲荷様が貸し出してくれた簡易トイレにお風呂。驚くことに、私が掃除をしなくても、毎回、新しい状態が維持されていたのだ。

 初日に、異世界情報で驚くことから始まり、荷物を下ろしたり、テントの設営したりと、結構、疲れてた私。お風呂に入った後、お湯も抜かずに、そのまま、寝てしまったのに、翌朝、掃除するつもりで覗いたら、すでにお湯はなくなっていて、むしろ、ピカピカ未使用状態に戻ってた。

 それはトイレも同様で、キャンプを終えた最終日になっても、いやな臭いも何もなかったのはホッとした。だって、臭いのを返すのって、嫌だし。


 そして、管理小屋で借りた鉈は思いのほか大活躍だった。

 買った薪は、一晩で使い切ってしまったのだ。あんなにすぐに使い切るなんて、自分でも思ってもいなかった。また管理小屋で買ってきてもいいんだけれど、往復の時間もお金も勿体ない。

 だから鉈を使って若木を切ってみたら。


 スパンッ


「え」


 あっけにとられるほど簡単に切っていく上に。


「ちょ、何、これ」


 ……乾燥した薪が足元に転がっていた。


「いやいや、これ、おかしくない?」


 いや、異世界だから、アリなのか? これが異世界クオリティなのか? と呆然となったのは言うまでもない。

 それに、だ。

 テントを張る前に抜いた草や、避けてまとめておいた石が無くなっていた。どこか別のところに動かしたか、とも思ったけれど、次の日も、その次の日も、試しに草抜きや石をよけたりしたのに、これも消えてなくなってしまった。


 ――なんか、やっぱり異世界なのかも。


 そんな不思議な思いをする一方、困ることもあったわけで、中でも、やはり食事だろうか。

 キャンプ飯を楽しむつもりはあったものの、それ以上に、観光に行った先での外食も楽しみにしてた。しかし、移動が面倒くさい。

 一応、キャンプに向かう前、時間が短いなりに調べたりもしたのだ。結局、キャンプ場からさらに30分くらい車でかかる場所に、温泉付きの道の駅があった。

 一応、1週間の真ん中の日に、1日かけて出かけてきた。買物も温泉も大満足。こんな日もいいよな、と思ったけれど、さすがに毎日は無理だと思った。


「で、山、買う?」

「え」


 時刻はお昼前。翌日から仕事の予定だ。少しだけ、ここに残りたい気持ちはあるものの、やっぱり生活のことを考えると、現実的ではないな、と思う。

 管理小屋に鉈を返して、チェックアウトするつもりでいたら、あのお稲荷様(人バージョン)に言われた。


「あ、いや、買うでしょ?」

「えー」

「何々、あんな物件、そうそうないよね? 普通、あんな値段で買えないよ? それに異世界、異世界だよ?」

「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ」


 しゃべり方がすっかり別人。グイグイくるお稲荷様に、私の方が身をそらす。


「た、確かに、息抜きに来る分にはいい場所だと思いますけど……あそこに常駐はちょっと」

「何でよ、いいでしょ、自然に囲まれて」

「あははは」


 私は笑って誤魔化し、さっさとキャンプ場を後にした。

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