悠久の探索者
国産野菜食べよう
第1話 赤く染まるカマキリ ①
ここはかつて南米の、おそらくブラジルと呼ばれた土地のとある場所。歩きやすい道から外れ、草がまばらに生える何もない平地を歩く人影が2つ。
「何も見当たりませんが・・・、本当にこっちであってるんですか?」
影のうちの小さい方―150cmくらいだろうか―が風景に変化がなくて飽きましたよと言わんばかりに苦情を口にする。目的地に近づいてるであろうことは、まぁなんとなくそうなのだろうと思える程度には言葉を投げた先の人物を信頼してはいる。ただ、退屈なのは別である。
「何だもう飽きたのか?君は少し忍耐力が足りないのではないか?セアルチェラくん?」
あなたが退屈なのは見てわかるからいちいち言うなといった風に男は質問を質問で返す。退屈そうなセアルチェラと呼ばれた少女とは対照的に、彼の足どりは軽い。
「そうは言っても何時間も同じ風景ばかりのところを延々歩いて・・・変化が欲しくなりません?」
尚も持て余した退屈に耐えかねて食い下がる彼女に男は少し笑いながら言葉を返す。
「・・・そうだな、もう少し背を伸ばせば見える世界も違うだろうなぁ」
そう言われてセアルチェラはむくれた。
「お、ようやく目的の場所が見えてきたぞ」
男の目は地平線にある小さな変化を捉えた。
少女にはまだ見えない。身長による視差を恨めしく思いながら、眉間にシワを寄せ悔しそうに言葉を返す。
「・・・ずるい」
――――――
私はセアルチェラ。そう呼ばれている。なんだかんだ色々あってこのヒトの助手として旅をしている。この人はレイシュア。そう呼ぶよう言われた。少し大柄で身長は175cmといったところだろうか。どちらかというと痩せ型だと思う。見た目は30〜40くらいのオジサン。以前年齢を訪ねたら「いくつに見える?」と言われ問い返したら笑っていた。どうやら教えてくれる気はないらしい。見た目はどこかだらしなく、どこにでもいそうな中年男性なのだが自由気ままに旅をするくらいには蓄えがあるらしい。財源は不明。そしてヤタラに顔が利くらしく何処からともなく謎の情報を仕入れてくる。情報源も不明。そして何故かやたらと強い。多少の魔獣・猛獣程度なら意に介さないようだ。理解不能。色々やり尽くして飽きてしまったのか、理由はわからないが不思議な生き物に興味があるらしくあちこちを転々としている。―――そしてこの当たりにどうやら真っ赤に酔っ払った自殺志願のカマキリがいるらしいと言うことではるばるやってきたわけだ。
――――――
目的地が見え暫く歩くと、地面は乾いた土から次第に落ち葉に覆われるようになった。そこには高さ20mほどになろう巨木が鎮座している。その先には次第に木が生えなだらかに傾斜する斜面は少しずつ草原から森へと変化していくが、巨木の周りは草原であった。ぽつんと、しかしずっしりと立派にそびえるこの木を目印にしたこの場所が今回の目的地である。
巨木の周り、散在する草や小木の先に真っ赤なカマキリがいる。近づくに連れちらほら見かけてはいた。巨木が近づくにつれて少し頻度が増したようにも思える。大きさは12〜3cmといったところだろうそれは、鎌を振り上げて威嚇のポーズを取る―空に向けて。じーっと眺めていると、ほどなくそのカマキリは攫われていなくなる。鳥に捕食されるのである。枯れ葉の茶色と草木の緑の中で真っ赤なカラダは否応なく目立つ。どうぞ食べてくださいと言わんばかりである故、そうなるのはもはや必然である。
(なんでこんな進化しちゃったんだろう・・・?)
何故このカマキリはこうした自殺行為とも呼ばれる行動を取るのか、取るに至ったのか?その謎を解き明かしてみたいと言うのがレイシュアのここへ来た理由であった。あちらこちらで散発的に真っ赤に酔っ払ったカマキリが鳥に食べられるという噂通りの状況を目の前にして、レイシュアは腕を組み顎に手を当てながら満足げに頷いた。
「さて、まずはじっくり観察だな」
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