第14話 クラスのギャルの彼氏と、ずるい目立たない子

 突然の告白に驚いていると、久我さんは言葉を続ける。



「だけどこの気持ちが届かないことも知ってます。姉から聞きました。凄く可愛い女の子とスーパーで仲良さそうに歩いていたって。その人、彼女さん……なんですよね?」


「……………あぁ」



 嘘でも莉々香の事を恋人じゃないとは言いたく無かったし、あの生徒会長は莉々香の正体には気付いてないみたいだから、俺は久我さんに聞かれた事に対して正直に答える。想ってくれていたのは純粋に嬉しいけど、莉々香以外は考えられないんだ。



「姉はこの学校では見たことがないって言っていたので、もしかして大学生とかですか?」



 やっぱりわかっていなかったか。助かった。これで莉々香にバラされていたらやばかったからな。

 さっきは平気なフリをしてたけど、内心ヒヤヒヤしてたし。とりあえずこれで一安心。あとはどう諦めて貰うかなんだよな。


 他人が聞けば『酷い』とか『最低』って思うかもしれないけど、気持ちに答えられないのに優しく曖昧な答えをする方がよっぽど残酷だと思う。

 だから敢えてわざと突き放すような言い方で答える事にした。



「それに答える必要はないな」


「で、ですよね……。ごめんなさい」


「それで要件っていうのはこれで終わりでいいんだよな? じゃあさっきの告白にちゃんと返事をするけど、ごめん。俺は久我さんの気持ちには応えられない。久我さんのお姉さんである生徒会長が見た通りに、俺には大切な恋人がいるから」


「わかりました。いえ、わかってました。ちゃんと答えてくれてありがとうございます。それでなんですけど、あの……これからも友達としてはお話してもいいですか?」


「それは大丈夫。普段教室で誰かと話すとかしないから、久我さんとの会話が楽しかったのは事実だし。ところで……答えなくなかったら答えなくてもいいんだけど、なんでそんな格好を? こんなことを言うのもアレだけど、その姿はいつもの久我さんよりも街を歩いてるチャラい男達が気安く声をかけやすい感じだと思うんだ。だから以前みたいなことにもなったんだし」



 言っちゃ悪いけど、普段の久我さんは少し暗い感じで声をかけにくい雰囲気がある。だけど今のギャルの姿だと、それがまったくないんだ。



「それは……実は私、こんな性格なのにギャルとかそういう派手な格好が好きで、ファッション雑誌もそっち方面のばかり買ってるんです。一応周囲に溶け込んで消えてしまいそうな目立たない服も少しは持ってるんですけど……」



 消えたらダメだと思うんだが? というか、特に重い事情があるとかじゃなくて、ただの趣味嗜好だったんだな。ならとくに俺から言えることはないか。



「そっか。それなら次からはあんなことにならないように気をつけた方がいいぞ。じゃ、俺はそろそろ帰るから」



 今が放課後で良かった。それはこの時間なら人も少ないから。こんな姿の久我さんと一緒にいる姿を誰かに見られたら、なんて言われるかわかったもんじゃないもんな。



「あ……はい。今日は本当にすみませんでした」


「だからもう謝らなくてもいいって」


「はい……。あ、いきなりですけど、最後に一つだけいいですか?」


「なに?」


「その彼女さんとは、付き合ってどのくらいなんですか?」



 ほんといきなりだな。



「まぁ、だいたい一年くらいかな」



 あくまでだけど。



「そうですか……。そっか。一年か。一年も付き合ってたら恋人同士の殆どのことを済ましちゃったよね? だからきっと相手も色んなことに飽きてきたはず……それなら」


「ん? ボソボソ言ってたら何も聞こえないぞ」


「あ、いえ、なんでもないです。そうです! 私ちょっと先に行きますね。行きたいところあったの思い出しました」


「あ、ちょっ!」



 何故か急に急ぎ始めた久我さんがそのままの姿で教室を出ようとする。だから俺は引き留めようと声をかけた。その瞬間、



「きゃっ!」


「危ないっ!」



 久我さんは何かに躓いてバランスを崩して倒れそうになった。急いで手を伸ばして体を支えたけど、あと少し遅れていたら顔から床に衝突するところだったな。ちなみにちゃんと腰の少し上辺り──(まぁ、お腹だな)を、支えた。間違ってもマンガみたいに胸なんて触っていない。

 そう、触ってなんかいないはずだったのに、久我さんは俺の腕を掴んで、動かしたのだ。そのせいで、莉々香よりあるんじゃないかという胸に俺の指が沈んでいった。



「っ! すまん!」


「いえ、謝らなくても大丈夫です。助けてくれたんですから、むしろ私がお礼を言わないといけないくらいですから。だけど、胸触られちゃった……。真峠くん、私の胸、どうでしたか? 柔らかかったですか?」



 …………ちっ、失敗した。こいつ、さっきまでは普段はそんなことしなそうな感じだったのに、なかなかしたたかだ。


 さっき躓いたのもきっとワザとだな? 俺が助けてくれると思ってたってわけか……。


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