第8話 クラスのギャルと生徒会長
やっと服装も決まって俺達がやってきたのは最近出来た大型スーパー。ちょっとした日用品や食材ならここにくれば全て揃うらしく、莉々香のお気に入りの場所だ。食材に関しては業務用の物も置いてあり、店内にある手作りのパン工房のパンが特に好きらしい。きっと今日も買うんだろうな。
「それじゃあ……とりあえずパン見に行こ?」
まさかの最初からだった。
「もう行くのか? いつもはある程度回ってから寄るのに」
「いっちゃん、これからはそれじゃダメなんだよ。なんかね? この前地域の冊子に載ったみたいで、今凄く人気なんだって。だから早く行かないと売れきれちゃうみたい。というわけで、れっつご〜!」
財布の入った鞄を片手に歩き出す莉々香の後ろを見ながら、カゴを乗せたショッピングカートを押してついていく。しかし数歩歩いたところで莉々香はピタと足を止めた。
「ん? どうした?」
「パンは欲しいけど、せっかくのお買い物デートなんだもん。やっぱりいっちゃんとくっついて歩きたいなぁ〜って。なので左腕お借りしま〜す♪」
カートを押していた俺の左腕は、戻ってきた莉々香によって抱き締められるように確保されてしまう。
「ねぇねぇ! どう? これって、【当ててんのよ】って言うんでしょ? うりゃうりゃ!」
すると今度は、まるでイタズラでもしてるような顔になって、抱きしめた俺の腕を自分の胸に押し付けたり離したり。一応俺も思春期の男子なんだけどなぁ。ってそれより……
「こういうのは恥ずかしくないのな?」
「ん〜? 恥ずかしいとはちょっと違うかな? 思いっきり触られるのはすっごく恥ずかしいけど……っていうかまだ無理無理の無理だけど、こういうのなら大丈夫だよ? ほら、お祭りとかで人混み歩いてる時にぶつかったりするけど、女の子って実はそういうのは特にそこまで気にならないし」
「そういうもんなのか」
「そういうもんなのです♪」
「ん? 待てよ。ってことはクラスでいつもつるんでる男達ともそのくらい接近してるのか?」
それはなんか嫌だな。
「え? ぜ〜んぜん。私、いっちゃん以外の男はその場のノリでも近付かせないし。ワザとくっついて来ようとしても逃げるもん。莉々香ちゃんの他の男接近センサーは優秀なんですよ?」
「なんだそのセンサーは」
「ふふ〜ん♪ 知らなかったでしょ〜? コレ凄いんだよ? いっちゃん以外の男の子が近付いてくるとビビッ! ってくるの。いっちゃん愛されてる〜!」
「自分で言うなっての。しかもここスーパーだぞ。誰かに聞かれたら恥ずかしいだろうが」
「大丈夫だよ。学校での私と今の私が同一人物か知ってるのはいっちゃんと結さんと私のお母さんだけだもん」
ちなみに莉々香の言った結さんってのが俺の母さん。
「パン屋さんとうちゃ〜く。うん、まだまだ沢山あって良かった♪ ……ん? あれ? あの人もしかして?」
パン工房に着くなり不思議そうな顔で前を見つめる莉々香の視線を追うと、そこには試食コーナーで口いっぱいにパンを頬張る女の子がいた。
「どうした? 知り合いか?」
「知り合いって言うか多分、私達の高校の生徒会長さんだよ。知らないの? 見たことない?」
「さっぱりわからん」
ちゃんと見てみるけど、全然記憶にない。それにしても──ちょっと食べ過ぎじゃないか? 試食用のカゴの中身無くなりそうなんだけど。
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