第11話 ガブリン窟
「
「おぉおおお! 見える! 見えるよ! さっきまで真っ暗だったのが嘘みたい!」
俺の魔法に歓喜の声を上げ、大喜びで辺りを見回す真白。
暗視。その名の通り、暗闇でも昼間みたいに明るく見えるクラス1の白魔法だ。
「これで外出たら眩しいのかな?」
「そうなんじゃないか? っておい! 真白!」
止める間もなく、真白がたたたっと入ったばかりの洞窟を飛び出して行った。
ここはエイブンの南東にあるガブリン窟と呼ばれる低級ダンジョンである。
あの後真白と話し合った結果、俺達はエイブンの街を旅立つ為の目標を決める事にした。
けど、目標って言っても何を目安にすればいいのか分からない。
俺が考え込んでいる間に、真白はギルドのお姉さんに相談しに行き、助言を貰って来た。
それによれば、あちこち旅をするなら評価レベルを目安にするのがいいらしい。この世界では地域によって魔物の強さや治安の良さが全然違う為、エイブンでは中堅でも、他の危険な地域じゃ駆け出し扱い、なんて事もあるのだそうだ。
確かに、ゲーム的な世界ではよくある設定だが……それで色々大丈夫なのか? まぁ、軽いノリの神様が遊びで作った世界だから、考えるだけ無駄なのだろう。
ともあれ、そこで役に立つのが評価レベルという事である。真白が旅行代理店から貰って来たチラシにも、その地域の推奨評価レベルが載っていた。
つまり、冒険者としてそこに行くなら、最低でも推奨評価レベルに達していないと仕事にならないという事になる。お姉さんの話によれば、エイブン周辺はこの世界でもダントツに平和で魔物の弱い地域なので、ここを出て二人で近隣を旅するなら、評価レベル10はあると安心だという事だ。
それで目標は決まった。
評価レベル10になったらエイブンの街を旅立つ。
ちなみに、半月初心者平原に通った俺達の評価レベルは3である。評価レベルもまた難易度制なので、あの場所でこれ以上狩りをしても評価レベルは上がらないとの事だ。
そういうわけでやってきたのが、初心者ダンジョンの異名を持つこのガブリン窟というわけだった。
ここでの魔物狩りも常設クエストに指定されており、推奨評価レベルは3~9である。ちなみに推奨評価レベルは土地柄や治安、魔物の強さなどを総合したもので、それとは別に魔物には個別の脅威レベルという物がつけられている。どちらも評価レベルと対応しているが、あくまで目安という話だ。
なんでこんなに開きがあるかと言うと、階層によって出現するモンスターの強さが違うかららしい。
……もはやなにも言うまい。
ここはそういう世界なのだ。
それにしても、真白の行動力には感心する。困ったら遠慮せず人に頼る。一人で抱え込みがちな俺には中々出来ない事だ。俺に出来ない事ができ、俺に足りない物を補ってくれる真白。なにがチートかと言えば、真白こそが俺にとっての最大のチートである。あぁ、可愛いよ真白。だから早く戻ってきてくんないかな?
「ちょっと刹那!」
「どうした? 目を焼かれたか?」
「ううん! これ、外出ても別に眩しくない!」
「そうかそうか。じゃあ行くぞ」
世紀の大発見をしたような顔の真白に告げる。
暗視を使っている相手に光源の魔法を使っても目くらましにはならないようだ。
貴重な情報ありがとな。
†
ガブリン窟という名なので、当然このダンジョンにはガブリンなるモンスターが湧き、洞窟である。
中学生の頃に家族旅行で行った北海道のなんとかって鍾乳洞、あれをめっちゃ広くした感じに似ている。ごつごつして、ひんやりして、じめじめした感じ。足場も悪く、第一層の中でも結構高低差があり、立体的な作りをしている。
あと、普通に怖い。
ダンジョンというよりも、心霊スポットみたいだ。
……俺はホラーは苦手だ。得意な奴の気持ちが分からん。
自分から怖い思いをしに行くとかどうかしている。
「なんか、幽霊とか出そうだね!」
どうかしてる奴が隣にいた。知ってたけど。付き合う前から親友だったし、普通に二人で映画とか行ってたし。他の友達は誘っても来てくれないんだもん! とか言って、毎度ホラー映画に誘ってくるのだ。俺が怖がりだって知ってる癖に! まぁ、真白と映画に行けるなら! って理由で俺も毎回誘いに乗ってはいたんだが……。
真白の目は、出そうだね? というよりも、出ないかな? と期待するようだ。
「フラグ立てるなよ。ここは剣と魔法のファンタジーな世界だぞ。幽霊だって、いるに決まってるだろ……」
ごくりと喉を鳴らして、周囲を警戒する。
「はわわわ……最高じゃん……。思う存分戦えて、おまけに幽霊にも会えるなんて……異世界さいこー!」
さいこー! さいこー! さいこー。さいこー……。
真白の声がガブリン窟に木霊する。
「大声出すなよ! 魔物に気付かれるだろ!」
「そしたら倒せばいいじゃん! その為に来たんでしょ? 常設クエストなんだし、ガンガン狩ってちゃちゃっと評価レベル上げちゃおう!」
「ゲームじゃないんだぞ! ゲームみたいな世界でも、俺達には現実なんだ。もうちょっと危機感を持ってだな!」
「あ、後ろ」
「そんな手に引っかかるかよ!」
まぁ、一瞬ビクリとしてしまったが。ホラー映画を見た帰りはいつもこんな風に脅かしてくるから、いい加減慣れっこだ。
「キャアアアアアア!」
「うわああああああ!?」
突然背後から聞こえた女の絶叫に思わず飛び退く。
振り向くと。
「うわああああああ!?」
血の涙を流す不気味な女の顔が宙に浮かんでいた。
「でででで、でたぁぁあ!?」
思わず腰が抜けそうになるのを必死に堪え、真白を背に庇う。
「に、逃げろ真白! 俺が囮になってる内に!」
「セイッ!」
「……ぇ」
ビビり散らかす俺の横を通り抜けて、真白が幽霊を斬りつけた。
女の顔が真っ二つになり、地面に落ちてビクビクともがく。
よく見ればそれは、女の顔のように見える模様を持った、ただの巨大な蝙蝠だった。
唖然として、口がパクパク。恥ずかしくて涙目になる俺。
手の中にポン! と取説が現れて、頼んでもないのにページが開く。
モンスター図鑑。
俺は無言で取説をしまうと、咳ばらいをしてキリっとした顔を作った。
「一層の推奨レベルは3だが、一番強い魔物の脅威レベルが3ってだけで、それ以下も出るらしい。こいつは多分、1ぐらいだな。楽勝だったからって油断するなよ」
「ふ~ん?」
真白は物凄く意地悪なニヤニヤ顔を俺に向けると、急にへっぴり腰になって両手を広げ、今にも泣き出しそうな必死な顔で叫んだ。
「に、逃げろ真白! 俺が囮になってる内に!」
「………………」
仕返しに、俺は真白の暗視を解除した。
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