第2話 カップル転生

「「はっ!?」」


 授業中に居眠りをしていてビクン! となる感覚。アレに近い。

 で、気づいたら俺達は二人仲良く、ファンタジックな街の片隅に突っ立っていた。


 残念な幸運な事に、俺達はちゃんと服を着ていた。

 いかにも初期装備というか、ただの村人Aというか、モブっぽい感じの服である。

 違いがあるとすれば、俺がズボンで真白はスカートな事くらいだろう。


「凄い……本当に転生しちゃったね」

「夢みたいだな」

「確かめてみる?」


 お互いに頬を抓り合う。


いたいいはい

いたいねいはいえ


 当然だが、夢じゃない。夢であってたまるか!


「しゃあああああ!」

「いぇええええい!」


 二人して、跳び上がってハイタッチ。

 そんな俺達に、異世界の住人達が奇異の目を向ける。


 剣士に魔法使い、弓使いに僧侶、いかにも冒険者ちっくな人達に。

 エルフにドワーフ、獣人のような異種族達。


「異世界だね」

「異世界だな」


 二人で盛り上がった異世界ラノベみたいな光景がそこには広がっている。


「どうする?」

「どうしよっか?」

「まずは持ち物とか確認してみるか」

「うん。女神様がなにか凄いアイテムとかくれてるかもしれないしね」


 二人して所持品を確かめてみるが、ポケットには小銭一枚入ってない。


「何もないな」

「だね……」


 二人して落胆する。転生させてくれただけで十分ありがたいのだけど、ちょっとこれはマズいんじゃないだろうか?


「今晩泊まるとこ、どうしよっか」

「食い物もな。金を稼ぐにも、この世界の事何も知らないし……」


 がっくりしていると、足元でぱさりと音がする。


「なにこれ?」

「本みたいだな」


 どこから降って来たのか、一冊の本が足元に落ちていた。

 拾い上げて表紙を見ると。


「困った時の取扱説明書って書いてあるけど……」

「きっと女神様がくれたんだよ! 開いてみてよ!」


 俺の肩に顎を預けるようにして真白が覗き込む。近い、近いよ! 真白は陽キャなので、距離感がバグっているのだ。嫌ではないので指摘しないが。あぁ真白、なんて良い匂いなんだ。お前は本当に俺と同じ人族なのか?


「えーと、なになに? 見ての通り、ここはゲームっぽい世界です。剣と魔法のファンタジー、アールマイア王国の平和な街エイブン。仲間内で作ったお遊びの世界なので、細かい事は気にしないで楽しんでね……って、ちょっと適当すぎないか?」

「神様的にはゲームで遊んでるような感覚なんじゃない?」


 まぁ、それで転生出来たんだから文句もないが。

 次のページをめくる。


「この世界の住人は、インベントリーという、持ち主にしか見えない鞄を持っています。容量は重量制で、STR次第ですが、物凄く大きいわけではありません。念じる事で出したり消したり出来ます。初心者パックを入れておいたので、役立ててください……」


 俺達は顔を見合わせると、同時に念じた。

 すると、ポン! と目の前に茶色い革のトランクみたいなのが開いて現れた。中には金銀銅の豆粒みたいな硬貨が入っている。金貨は数枚、銀貨はまぁまぁ、銅貨は沢山だ。他には地図と短剣が二本、片方は解体用らしい。あとはヒールってラベルの貼ってあるポーションが三本。それとこれは……コンドーム!?


 真白もそれを見つけたのだろう、ギョッとして顔を赤くしている。

 お互いに顔を見合わせて苦笑い。女神様、気が早えよ!? 俺達まだ、付き合って一週間だぞ!? 恥ずかしいのでそれ以上は触れないでおく。


 インベントリーの中のアイテムはどれもミニチュアサイズだ。試しに銅貨を一つ取り出すと、急に巨大化して大き目の十円玉みたいになった。見やすいように小さくなっているらしい。


「すごいね」

「だな」


 もう、これだけで俺達はテンションぶち上げ、二人でふひひひとオタク臭い笑みを浮かべている。


 まぁ、女神様の餞別にしてはしょっぱい気もするが、いきなり最強の魔剣みたいなのを渡されても扱いに困るし、貰えただけでも感謝だろう。


 次のページには、このゲーム的世界の仕組みのような事が書いてあった。


 この世界にはレベルはないが、魔物を倒したりスキルを使うと徳が貯まり、神様の加護でステータスが上がるらしい。


 ライフは生命力、に見せかけた神様の加護バリア。

 マナは魔力量、魔法や一部のスキルを使うのに必要。

 スタミナは持久力、走り回ったり武器で戦ったり一部のスキルを使うのに必要。

 STRは筋力、ライフや武器の攻撃力、インベントリーの重量などに関係する。

 VITは体力、スタミナや防御力、肉体的な抵抗力などに関係する。

 DEXは器用さ、命中精度、諸々のスキルや生産の成功率などに関係する。

 AGIは素早さ、攻撃速度、回避率などに関係する。

 MAGは魔力、魔法やスキルを使う為のマナ総量と回復力、魔法の効果や抵抗力などに関係する。

 LUCは運。文字通りの諸々の運の良さだが、この数値だけはその時々で変動する。


 次にスキルだ。

 こちらは熟練度制で、戦ったりスキルを使うと神様の加護が増して、より凄い事が出来るとの事。一応独学でも身につけられるが、普通に大変なので、街にいる師範クラスの使い手にお金を払って手解きを受け、手っ取り早く見習いレベルまで熟練度を上げてもらうのがオススメだそうだ。


 スキルやステータスは才能によって全体での最大合計値が決まっており、神様の加護なので、特定の項目だけ上げたり、上がらなくしたり、上がった分他を下げたり出来るとの事。


 なので、片っ端から手解きを受けてスーパー器用貧乏に! みたいなのはあまり意味がないらしい。不要なスキルの熟練度は下げられるので、お試しで覚えてみるのはありのようだが。


 次のページにはこの街にいる様々なスキルの師範クラスの使い手の居場所が書かれている。


 剣術、弓術のような各種武器スキル。

 錬金術、裁縫、鍛冶のような生産スキル。

 魔法、戦技、召喚のような能力スキル。

 窃盗、調教、演奏のような技能スキル。

 魔力呼吸、魔法抵抗のようなパッシブスキル。

 薬草学、魔物学、解剖学のような知識スキル。


 この街にいるのはメジャーなスキルの師範クラスだけなので、世界を旅して珍しいスキルを覚えるのもいいでしょうとの事。

 次のページは……。


「困った時の取り扱説明書なので、その時必要な情報しか教えてあげません……だとさ」


 案外、この本が一番のチートアイテムなのかもしれない。


「どうする?」

「どうしよっか……」


 剣と魔法のゲームみたいなファンタジー世界である事は分かった。

 女神様から貰った軍資金を使えば、この先この世界で生きていく為に必要な最低限のスキルを覚えられるという事も理解した。

 問題は、どんなスキルを覚え、どんな道に進むかだ。


 お互いに思う所はあるのだろう。

 長い付き合いだから、真白の思っている事は雰囲気で理解出来た。

 ただ、実際にこんな状況になってしまうと、気恥ずかしくて口に出来ない。

 我慢比べのようにもじもじしていると、根負けして俺は言った。


「……とりあえず、冒険者とか目指してみるか?」

「……うん。折角だし、ね?」


 ただの普通の高校生が冒険者だ。

 大真面目に口にするのは、ちょっと恥ずかしい。

 勿論内心では、早くスキルを覚えたくてうずうずしている俺達だったが。

 

【黒木刹那・人間】


 ライフ 40

 マナ  60

 スタミナ40


 STR 4

 VIT 4

 DEX 6

 MAG 6

 AGI 5

 LUC 6


 スキル なし 

 タレント ??? 


【天野真白・人間】


 ライフ 60

 マナ  40

 スタミナ60


 STR 6

 VIT 6

 DEX 4

 MAG 4

 AGI 5

 LUC 5


 スキル なし

 タレント ??? 

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