2-5晩御飯はまだ?


 とりあえず私たちはトランさんの保護下に入って一安心となった。



「しかし、地竜がこんな所で倒されているとはなぁ。シェルの奴、一体何したんだ?」


 トランさんは大きな巨体の怪獣を見上げながらそう言う。


 

 言えない……

 これをルラがやっつけてなんて決して言えない。



「ん~、あたしがこいつやをやっつけたの~」


「ルラっ!」


「ははは、ルラは強いんだな。でもせっかくこんな所で地竜が死んでいるんだ、もったいないな。地竜の身体は色々と部材として使えるんだよなぁ」


 トランさんはそう言って怪獣を触っている。


「これって何かに使えるんですか?」


 興味を持って私はトランさんに聞くと笑いながら教えてくれる。


「竜はたとえ地竜でもその素材はとても高値で売れるんだよ。血の一滴でさえ魔法の素材としても重宝されるからね。ああ、魔法の袋か何か持っていればこいつを持って帰れたのになぁ」


 トランさんはそう言って残念そうに地竜を擦っている。

 私はトランさんにおずおずと聞いてみる。


「あの、トランさん。もしかしてこれ使えますか?」


「ん? なにかなリル?」


 私はあの魔法のポーチを差し出す。

 するとトランさんはそれを見て目を剥く。



「こ、これってもしかして魔法のポーチ? しかもこの紋様はメル様の物!? リル、これを一体どこで手に入れたんだ!?」



 あー、なんかトランさんが驚いてる。


 これってシャルさんの持ち物なんだけど緊急事態でその中身とか使わせてもらっているけど大元は長老様が作ったのか。


 私はこれの持ち主がシャルさんであることを伝え、ここに飛ばされるまでの経緯を話し始めるのだった。



 * * *



「なるほど、それで君たちだけがこんな所に飛ばされたのか…… 本当に災難だったね。しかし、エルハイミさんも関わっていたとは……」


「トランさんもエルハイミさん知ってるんですか?」


「まあね、彼女にはエルフの村を助けてもらった事もあるしね……」



 うーん、あの魔法使い結構有名なんだ。


 

 私がそんな事を思っているとトランさんは仲間の人たちと何か話している。

 まだコモン語が分からない私たちはきょとんとしてトランさんたちを見ている。


「うん、お待たせ。話が付いたよ。みんなもそれで納得してくれたけど、リルとルラはこの後僕たちと一緒に近くの街に行くよ。そしてそこで迎えが来るのをまとう。それでね、一応君たちに相談なんだけど」


「はい?」


「このドラゴンを持ち帰りたいんだ。それでリルの持っているその魔法のポーチを貸してもらいたい。多分メル様の作ったものだから地竜くらい簡単に入ると思うんだ」



 マジ?


 確かにその大きさに比べてあり得ない程の道具が入っているけど、象さんより大きなこんな怪獣まで入るの!?


 私は思わず手に持つポーチと怪獣を見比べる。

 そしてトランさんに聞く。



「もし入らないでこれ壊れちゃったらどうしよう?」


「大丈夫、メル様が作ったものであれば確実に入るよ。貸してもらえるかな?」


 そう言って手を出すトランさんに私はおずおずとシャルさんのポーチを手渡す。

 するとトランさんはポーチの蓋を開けて怪獣を掴みその中に入れると、何とその怪

獣は吸い込まれるかのようにポーチに入ってしまった!!



「うそっ! あんなに大きかったのに入っちゃった!?」


「うわー、凄い。シャルさんのポーチ怪獣まで入れられるんだ!」



 私もルラも思わずそのポーチを見る。

 そしてトランさんはポーチのふたを閉めて私に返してくれる。


「街まで行ったら地竜をギルドに持って行ってお金に変えよう。それで君たちの滞在費とか服とか必要品も買えるしね。流石に僕の稼ぎだけじゃずっと君たちを養うのは難しいからね」


「えっと、その、ありがとうございます」


「トランさんありがとう~」


 私とルラはそう言ってぺこりとトランさんに頭を下げる。

 するとトランさんは笑いながら手を振る。


「いいって、いいって。それより君たちさっきから何食べてたの? なんか好い匂いがするのだけど?」


 そう言いながらトランさんは鼻をヒクヒクさせる。

 私は思い出しフライパンのキノコ炒めを取り出す。



「えーと、味が薄いかもしれませんがこれ採って食べてました」


「おや? これは毒キノコのはずだが?」


 私がそれを見せると一緒に居たロナンさんが話しかけてくる。

 ちゃんとエルフ語で。


「あ、え、ええぇとぉ、お母さんに毒抜きの方法教わってたから……」



 うー、私の能力「消し去る」は内緒にしておきたい。

 でも今の説明は厳しいか?



「へぇ、流石レミンさん。精霊魔法だけじゃなくていろいろ知ってるね。でもリルもよくこれが毒キノコってわかったね?」


「へ? え? あ、あぁ、あの、縦に裂けないのは毒キノコって聞いたので……」


 生前何かの話で聞いた事を思わず言ってみる。

 するとロナンさんは興味深くフライパンの中のキノコを見る。


「なるほど、流石はエルフの知識ですね。自然の物の特徴をよく知っている」


「ふーん、それは初耳だね? それでこれはもう食べられるんだ」


「そ、そうなんですよ! もしよかったらまだまだありますから食べますか?」


 あわててそう言う私にトランさんはにっこりと笑いながら頷く。


「そうだね、もう日も暮れたし今日はここで野宿するしかないもんね。僕たちもまだ晩御飯食べてないから頂くとするよ」


「あ、でもトランさん、調味料が無いので味が薄いですけど……」


 私がそう言うとトランさんは腰の袋から何か出す。

 そして開いて見せてくれるとピンク色の石みたいなものだった。



「岩塩が有るからこれ使っていいいよ。あ、そうだテルにも何か持っていないか聞いてみるよ」



 言いながらトランさんは仲間の一人、テルさんという人に何か聞いている。

 するとテルさんは腰のポーチから何か取り出し渡してくれる。


「テルはレンジャーだからいろいろ知っているんだ。それで薬草だけどハーブだから炒め物にも使えるらしいよ」


 そう言って渡された乾燥ハーブはなんかバジルっぽい。

 私はテルさんにお礼を言って頭を下げるとにこりと笑って手を振ってくれる。


「えっと、それじゃぁこれで残りのキノコ焼いちゃいますね!」


 私はそう言って焚火に薪を追加してフライパンにもう一度松の実とキノコを入れてもらった岩塩とハーブをちぎって入れてみる。

 少し【水生成魔法】で水を追加して炒めると良い感じになって来る。



「うわっ! さっきよりなんかおいしそう!!」



「うん、ルラ近くの葉っぱ採ってきて洗ってくれる? 皆さんに配るにはお皿が無いからそれで代用する」


「うん、分かった!」


 私は出来あがったキノコ炒めを一つ取り上げて味見してみる。



 ぱくっ!



「ん!! 美味しい!! なにこれ、塩とハーブで風味も味もぐっと良くなった!!」


 自分でも驚くけど、こんなに美味しいキノコ炒めはこちらの世界に来て初めてだった。

 フライパンいっぱいに焼き上がったそれをルラが準備した葉っぱのお皿に分けて皆さんに手渡す。

 するとホボスさんがビスケットみたいなパンを私たちに渡してくれる。


「非常食のパンだよ。ちょっと硬いけどこのきのこと一緒に食べよう」


 トランさんはそう言って木の枝で作った簡易のスプーンでキノコ炒めを食べる。



「へぇ! これはいける!!」



 驚きながらキノコをどんどんと口に運ぶ。


「ほう、流石はエルフの手料理ですね。どれ?」


 ロナンさんもそう言ってキノコ炒めを食べ始める。

 他の人達も何か言ってから食べ始めるけど、どうやら喜んでもらっている様だ。



「さて、それじゃぁ私達も食べようか、ルラ」


「うん、いただきまーす!」




 私たちは焚火を取り囲んでしばしの間食事を楽しむのだった。 


 

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