腹ぺこエルフの美食道~リルとルラの大冒険~
さいとう みさき
プロローグ
プロローグ:美人薄命なのよ!!
梅雨時のうっとしい湿度に前髪が上手く決まらないせいで私、榛名愛結葉(はるなあゆは)は登校時間ギリギリまで鏡の前であれやこれやとしていた。
「いい加減にしなさい! 遅れるわよ!!」
母親がリビングから大声で怒鳴って来る。
大学はまだまだ時間に余裕があるのか兄があくびしながら洗面所に現れる。
「なんだ、まだいたのかよ? 顔洗いたいんだけど」
「うわっ! なんでパンツ一丁なのよ!? ここにうら若き年頃の乙女がいると言うのに!!」
「ちんちくりんのまな板娘なら目に入る。貴様が女子高生と言うこと自体が奇跡なんだがな」
むかっ!
誰がちんちくりんのまな板娘よ!!
私は兄の足を蹴飛ばしカバンを持って家を出る。
「行ってきまーすっ!!」
玄関を出る時に後ろで兄の「いってぇーっ!! 覚えてろよ!!」などと言う声が聞こえるけど完全無視。
可愛い妹を馬鹿にする不遜な兄が悪いのだ。
私は玄関を出て気付く。
五月雨。
しとしとと霧のような雨が降っている。
いつもの通学路だけど今日は時間的に厳しい。
だから少し駆け足気味で駅まで行くのだけど‥‥‥
さわさわと降る雨の中、小学生たちが集団登校している。
そんな中私と同じく遅れた子だろうか?
急いで班に合流しようと一人駆けてくる子がいる。
ああ、保護者の人も向こうで横断歩道渡るのにお手伝いしているなぁ。
自分も時間が無いのに思わずその子に気を取られる。
するとその子は何と信号の無い道路をみんなに合流する為に渡ろうとする!?
やばいこの展開!
すぐに道路の左右を見るとお約束の大型トラックが来ている。
そして私もそれを察知してすぐに行動に出る。
考えるより動いた方が良いに決まっている!
ちらりと見ると案の定トラックの運転手はスマホを片手にそちらに集中している。
だから横断中の小学生になんか気付かない。
「させるかぁ! こんなお約束みたいなの!!」
私はすぐさまその小学生の子を抱きかかえ道路の反対側に逃げ込む。
ギリギリに気づいたトラックの運転手が踏み込むブレーキの音がしてガードレールにぶつかった様だ。
ちらりと見るとトラック以外特に問題は無かったようだ。
私はその小学生を放してやる。
「お、お姉ちゃんありがとぉっ!?」
語尾が変な風になったこの子に疑問を持ったその瞬間、何かが後ろからぶつかって来てとても痛い衝撃を感じる。
私はその小学生につんのめる感じで痛みを伴って倒れ込む。
と、背中に何かが倒れ込んできて硬いものが首元へ‥‥‥
くきっ!
変な音と思った瞬間私の意識は暗い闇へと消えて行ったのだった。
* * * * *
はっ?
気が付いた。
「あ、あれ? 私は‥‥‥」
『あら、気が付きましたわね? 不幸ですわ、あなたは死んでしまいましたのよ』
なんかうっすらと暗い空間に下から淡い明かりが灯った部屋で椅子に座ったような感じの私はいきなりかけられたその声に驚き見る。
すると正面に美人で金髪碧眼にこめかみの横に三つづつトゲの様な癖っ毛のある私と同じくらいの年頃の女の子がいた。
外人さんかと一瞬思ったけどさっきのって日本語よね?
「え、えっとぉ、私が死んだってどう言う冗談ですか?」
『うぅ~んと、意思疎通はこの姿で大丈夫そうですわね? どうもあなた方と接触するのは苦手ですわ。今は別の世界の女神の姿を借りていますが、呼ばれたので近くまで行ったらあなたがたが死んでいたのですわ。立派な最後でしたわ。小さな子をかばってトラックから救済したまでは良かったのにフラグを立ててしまってテンプレ回避できませんでしたわ』
私が見ても可愛いと思うその子は微笑みながら小首をかしげる。
なんなのよそれ?
この外人頭大丈夫?
思わずジト目で見てしまう私。
『あらあらあら~困惑してしまうのは分かりますわ。でもあなたは元いた世界でトラックから小学生を救済したまでは良かったのに自転車に乗った自重百キロを超える新興宗教の少しイってしまっているオバサマにダイレクトアタックを受けてそのオバサマが転んだ拍子にその全体重がかかった肘がクビにのしかかりぽっきりと逝くと言う大惨事でしたのよ? しかもあなたのその弾力の無い胸の下敷きになってその小学生も一緒に圧迫死と言うダブルの悲劇。お悔やみ申し上げますわ』
いやいやっ!
今さらっと私の胸に酷い事言わなかった!?
何なのよそれ!?
「死んだ? 私が死んだ? しかもおばさんに自転車で引かれてボディープレス喰らって死んだぁっ!?」
「まだいいよ、お姉ちゃんは。僕なんか小学校になったばかりだったのに‥‥‥」
「はいっ!?」
胸元から声がして見ればぺったんこに、いや、平面になった男の子がへばりついている!?
『そうそう、その子の方が先に気が付いたので事情説明はしたのですわ。幸か不幸かその新興宗教のオバサマの祈りの声が聞こえたので私が来たわけですが。それで、ここまで大惨事ですと流石に生き返らせるわけにはいかないので異世界転生してみませんかしらですわ?』
「何そのどっかの小説みたいな流れ!?」
「えぇ~、生き返らせられないの? 神様なのでしょ? 僕まだ死にたくないよぉ」
『うぅ~ん、残念ながらもうあなたたちの体は火葬場で焼かれちゃってるので無理ですわね。流石に信仰心の弱いあなたたちの世界、しかもその中でも特に神様何て信じていないあなた方の国では奇跡を起こす力が不足してますのですわ』
「いや、目の前に神様がいるんでしょ? 何とかしてください!!」
『もう何ともなりませんわ。それなので問題の少ない異世界転生をお勧めしますわ』
ポンと両手を口元で合わせてお願いポーズをするこの女神、いや駄女神か?
「う~ん、せっかく小学校に入ってこれからだって言うのにぃ~」
「わ、私だって花も恥じらう乙女だって言うのに!!」
『なんか言い方が古臭いですわね? まあでもそう言う事でしたら永遠に若さを保てるエルフに転生など如何ですわ? それと勿論チートスキルも付けちゃいますわ! ご要望があれば言ってくださいですわ!』
なんかここぞとばかりにたたみかけてくる。
一体何なのよこの女神!?
「エルフって、確か魔力が多くて魔法扱えるけど体力が無いから戦闘は弱いんだよね? ゲームでもそうだった!」
『あら、よくご存じですわね? 大体それで合っていますわ』
またまたぽんっと手を合わせこの女神様はにこにことする。
私は思わずため息をついて今までやり残してきた事を走馬灯のように思い出し、先輩に書いたラブレターの恥ずかしさを思い出した。
「チートはどうでもいいからあの恥ずかしいラブレターの始末お願いします!! 消してあんな恥ずかしい物!!」
「ええぇ、せっかくチートスキルもらえるのに? 僕最強が良いです!!」
『はいはい、それじゃあ異世界転生承諾と言う事で転生させちゃいますわ~。えーと消しちゃう力と最強ですわね~。それじゃあ二人ともエルフの村に双子で転生させますわね。あとはこちらで適当にやっておきますわ』
そこまで言ってその女神様は手を開くと私たちの足元に何やら魔法陣の様な物が浮かび上がり全てを光が包んでいく。
『それではあの世界で良い人生をですわ~。時折面白そうなのでのぞかせてもらいますわよ~』
「え? 私たちを覗くの??」
『それは勿論ですわ~、何せあなたたちは面白そうですもの、良い暇つぶしになりそうですわ~♪』
「なんなのよそれぇっ!? て言うか、暇つぶしなの!? それだけの力あるなら元の世界に復活させてよぉっ!!」
『それではいってらっしゃ~いぃ~ですわ~』
私は最後に無責任な駄女神の声を聴きながら放送用語に引っかかりそうな悪態をつきながらその場から消え去るのだった。
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