崔宏5  安民為本

拓跋嗣たくばつし北魏ほくぎ国内の土豪たちが民の暮らしを大いに煩わせていることを憂えていた。そこで土豪たちを平城へいじょうに召喚、数多の民が本来すべき生活を恋しがっている旨伝えた。更にその収奪を抑えるため、土豪それぞれに中央から発した副官をつけた。


土豪たちから甘い汁をすすって軽佻浮薄の限りを尽くしてきた子弟たちはこの措置に怒り、各地で結託し、謀反の兆しを示し始めた。

西河せいが建興けんこうにて盗賊団が発生。現地の官吏ではその勢いを抑え込めない。そこで拓跋嗣は崔宏さいこう安同あんどう叔孫建しゅくそんけん拓跋屈たくばつくつらに問う。


「先に各地で乱暴を働く者たちを都に集め、釘を差したにも関わらず、かの者らを地方官らは抑え込めておれぬ。中には任地を放棄したものすらいる有様である。乱暴を行うものは未だ多く、すべてを踏み潰すというわけにもゆかぬ。ならば朕はここで一度大赦をなし、民意を綏撫すべきなのではないか、と考えている。卿らがいかに考えておるかを述べよ」


拓跋屈が答える。

「民の逃散を罪に問わぬのであれば、次々と真似するものが現れましょう。ならばその主犯らのみ厳罰に処し、他の者は許すのがよろしいでしょう」


崔宏が言う。

「王者が天下を治めるのには、民を安んずることを基本とすべきです。ならばどうして些細な違反を咎めることにかかずらっておれましょう。例えるならば、琴の調子が外れているならば調律をなすように、法度が不全を起こすならば、法度を改めるべきなのです。ここでの大赦は、確かに正しき君主の振る舞いとは申せぬやも知れませぬ。なれどそうした仮措置は、秦漢以来の世にもしばしば見えております。拓跋屈は先誅後赦を述べておりますが、その施策が徹底されなかったとしたら、どうすれば民情を抑え込めることでしょう。ひとまず許すだけ許しておいて、それでもなお改めぬのであれば改めて討伐する。それでも遅くはないでしょう」


拓跋嗣は崔宏の言に従った。




太宗以郡國豪右,大為民蠹,乃優詔徵之,民多戀本,而長吏逼遣。於是輕薄少年,因相扇動,所在聚結。西河、建興盜賊並起,守宰討之不能禁。太宗乃引玄伯及北新侯安同、壽光侯叔孫建、元城侯元屈等問曰:「前以兇俠亂民,故徵之京師,而守宰失於綏撫,令有逃竄。今犯者已多,不可悉誅,朕欲大赦以紓之,卿等以為何如?」屈對曰:「民逃不罪而反赦之,似若有求於下,不如先誅首惡,赦其黨類。」玄伯曰:「王者治天下,以安民為本,何能顧小曲直也。譬琴瑟不調,必改而更張;法度不平,亦須蕩而更制。夫赦雖非正道,而可以權行,自秦漢以來,莫不相踵。屈言先誅後赦,會於不能兩去,孰與一行便定。若其赦而不改者,誅之不晚。」太宗從之。


(魏書24-13)




相変わらず微妙にわからないんですが、それにしたって拓跋嗣と崔宏が揃うなんて、ちょっと北魏さん強運過ぎませんか……? こんなまだ守盛とも呼べない段階で国の基礎を固める君主と宰相に恵まれるとか、南で劉宋さんが血の涙流してますよ?

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