勃勃16 非類なるを

赫連勃勃かくれんぼつぼつ長安ちょうあんに帰還したところ、かねてより召喚の命令をかけていた長安人の韋玄いげんが参内してきた。赫連勃勃に対し完全に萎縮しており、その挨拶も礼に適う、どころではない。完全に命乞いの体である。たちまち赫連勃勃は怒る。


「国士としてキサマを招いたのだぞ! なんだその態度は、まるでオレが人食いのバケモノのようではないか!

 そも、どうして姚興ようこうの招聘は蹴り、オレのものは受けたのだ? この様子なら、いざオレが死にでもしようものなら、キサマは喜んで筆誅を下すのであろうな!」


そう言って韋玄を殺した。


その後群臣は長安を都とすべきだ、と勧めてくる。しかし赫連勃勃は言う。


「わかっておるわ、確かに長安の守りは固い! とは言えここに拠点を置いたところで東晋とうしんの拠点からは遠く、しょせん奴らは脅威でもなんでもない! むしろオレたちと境を接している拓跋たくばつどもが統万城とうまんじょうのすぐ側にいることを考えれば、下手に長安を都とすれば、拓跋どもに統万を落とされることになるのだ! オレがあそこを都としている意味を、貴様らは理解しておらんようだな!」


臣下らは赫連勃勃の言葉に「我らの見識が浅はかでございました」と謝罪した。


まもなく長安には南台が置かれ、赫連璝かくれんかいをその総取締とした。




郡臣らは、「ご見識に敵いません」と言った。長安に南台を置き、赫連璝を領大将軍・雍州牧・録南台尚書事とした。








勃勃歸於長安,征隱士京兆韋祖思。既至而恭懼過禮,勃勃怒曰:「吾以國士征汝,柰何以非類處吾!汝昔不拜姚興,何獨拜我?我今未死,汝猶不以我為帝王,吾死之後,汝輩弄筆,當置吾何地!」遂殺之。群臣勸都長安,勃勃曰:「朕豈不知長安累帝舊都,有山河四塞之固!但荊、吳僻遠,勢不能為人之患。東魏與我同壤境,去北京裁數百餘里,若都長安,北京恐有不守之憂。朕在統萬,彼終不敢濟河,諸卿適未見此耳!」其下咸曰:「非所及也。」乃于長安置南台,以璝領大將軍、雍州牧、錄南台尚書事。


(晋書130-16_肆虐)




韋玄のエピソード、まぁキチガイなんですが、「こいつは夏にとって禍根を残す存在だ」と危惧したとも考えられるので、まぁ理解できなくもないですね。現代でも似た事件が起こってますし。いや正直そんな裏付けいらなかったんですが……。


一方で、長安周りについては漢人たちの因習から自由である姿も見受けられます。確かに長安って、基本的には「函谷関」「晋陽」「武関」の外からの守りに硬いだけであって、オルドスを広く拠点としている夏にとっては重要でこそあれ南方基地でしかないんですよね。しかも祖先を漢とも周とも異なるとしている以上、長安を重んじる意味もあんまりない。とは言え、感情的に漢人には言えない言葉でしょう。


なお、当話更新日は2022.03.15。あんまりにも直撃すぎる内容なため、実にげんなり来ています。

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