三十五話「谷本&大東を徹底的に壊す」


 シュートに名指しされた二人はすぐさま彼から逃げ出そうとするが、ここが密閉された教室である以上すぐに捕まってしまう。


 「うわあああ!?嫌だ、またあんな目に遭いたくないぃいいい!!」

 「何でだよぉ!?昼休みで俺たちを散々痛めつけたんだから、満足できねーのかよぉ!?」


 体が大きい谷本はその見た目にそぐわないくらい幼い子どものように喚き出し、大東はシュートの自分たちへの復讐に対する執念に恐怖している。


 「満足……?できるわけねーだろが。だってお前らってまだ完全に壊れてねーんだから。今後二度と、俺にしてきたクソったれなあれこれができない状態になるまで壊す必要がある。中里と同じようにして、家から外へ一歩も出られないようになるまで壊さないと、俺は満足しねーんだよ」

 「「あ、あああああ……っ」」


 この時谷本と大東のシュートに対し抱いた思いがシンクロしていた―――「こいつは残虐な悪魔だ」と。


 シュートをその残虐な悪魔に変えてしまったのは誰であろう自分たちであるのだが、今の谷本たちにそこまで考える余裕などなかった。


 「ここは狭いな。天井が低いから高いところから落としてもあんまり痛くねーよなぁ。だったら少し、方法を変えるか」


 グィ……と谷里の胸倉を掴み上げると、後ろの壁へ振り向いて、谷里を槍投げのように投げ飛ばしてそこに強く叩きつけた。


 ドゴォ! 「~~っがぁ……!」


 顔から激突したことで谷本の鼻から大量の血が噴き出る。後ろの棚から床へと落下してそこで倒れ込む。後ろ棚と床は血が飛び散っている。


 「あー、顔を前にして飛ばしちゃったから、顔に傷つくっちゃったか。まぁいいか。一人くらい顔が壊れてたって、な」


 そう言って谷本を無造作に持ち上げて定位置まで戻ると、同じように投げて、壁に叩きつける。


 ドギャ! 「ごぅおえぇ……っ」


 今度は頭と脚部分を掴んだ状態で投げつけたことで、背中から叩きつけられる。それでも威力は凄まじく、背骨にひびが入る程の損傷を負った。


 「あああ、あああああ……っ」

 「っはー。昔こんな感じで壁に投げつけて遊ぶおもちゃがあったよな、人の形をした粘着あるやつ……ペタペタマン、もしくはペッタン人形だっけ?壁にパァンって叩きつけて、それが妙にハマってたんだよなぁ。懐かしいなぁ。またやってみると面白いもんだなー。

 ましてや投げるやつがあんな人形じゃなくて、こんなクソ憎いカス人間を使って遊ぶなんてさぁ!」


 床に倒れている谷本をかつて遊んだおもちゃのように拾い上げて定位置へ戻っていく。その間谷本が叫びながら暴れ出したがシュートが彼の指を何本かへし折ってやると悲鳴を上げながらも大人しくなる。


 「今のお前は、俺の怒りを発散させる為に作られたただのおもちゃだ。おもちゃはおもちゃらしく、持ち主に壊されるまで永遠に遊ばれてろっ」


 そう言って両足を掴んだ状態で、谷本をまた壁に叩きつける。三度目の衝突で肩部分が脱臼、肋骨にひびが入る。床に落ちた谷本を掴み上げては再び壁へ叩きつける。四度目の衝突で背骨が一部折れてしまう。谷本の口から血が混じったよだれが出てくる。そんな彼をまた拾い上げて、また壁へ叩きつける。その繰り返しを何度も繰り返す。


 「あ……あ………。誰、か……助け、て……っ」

 「俺を含め、お前に虐められてた奴らはみんな、今のお前みたいなことを思って口にも出してたんだよ。そんな奴らをお前らは嘲笑ってさらに虐めを続けた。どうだ、やれらた側になった今の気持ちは?お前が今まで甚振っていきた奴らと同じ立場になって、どう思ってんだよ!?」

 「うあ、あああ、ごめ……ごめんなさ………」

 「ちなみに、俺は楽しいぜ!?今まで自分を虐めてたお前らクズどもをこうして存分に痛めつけられて!最高の気分だ!分かるよお前らの気持ち。暴力って楽しいんだよな!?俺も今、お前らに暴力で仕返しするの最高に楽しくて仕方がねぇ!!」


 楽しそうに笑うシュートは壁への叩きつけを終えて、さっきの中里と同じように手足の腱や手足の爪、歯をも壊し始める。谷本がどれだけ泣き叫んで助けや赦しを乞うても、シュートはそんな彼を嗤って見下すだけで、「壊す」手を一切止めなかった。


 「う……ぐ、ぁ………いやだ、死にたく、ない……」


 数度にわたる壁への叩きつけによる背骨と肋骨の激しい損傷・骨折と内臓数か所の破裂、意図的な暴力による手足の激しい損傷と爪・歯の欠損。さらには目玉も片方だけ抉りとられて失明。谷本一純も谷里と同じくらい徹底的に壊されたのだった。


 「殺したりはしねーよ。死ぬギリギリ一歩まで追い詰めることはするけどな。まぁ死んだ方がマシって思えるくらいにしても良いけどな」


 ボロ雑巾のような状態の谷本を蹴ってどかせると、ずっと床にへたり込んでいる大東の髪を掴んで立ち上がらせる。頻りに助けて!と叫ぶ大東を蹴ろうとしたその時、シュートの後ろから声が上がる。


 「おい、もう止めてやれよ!やり過ぎだって!」

 

 それは一人の男子生徒のものだった。彼はクラスではカースト中位くらいで、中里たちに虐められてるシュートを笑ったこともある。

 そんな男子生徒の一声がきっかけとなり、他の生徒たちもそうだそうだと同調し始める。担任の青野までもが彼らに倣って制止の言葉を言い始める。


 「 はぁ? 」


 シュートが発した言葉はたったそれだけ。そして最初に言葉を発した男子生徒を睨みつける。たったその二つのことをしただけで、喧騒は一瞬で沈黙した。スキル「威嚇」による圧力が原因である。

 シュートに睨みつけられた男子生徒は青ざめた顔をして後ずさる。


 「止めてやれ?やり過ぎだって?あのさ、今さら何言ってんの?そういえば昼休みにも不良グループの誰かも同じようなこと言ってたな。その後俺はそいつにあることを聞いたんだけどさ……」


 大東への暴力を一旦中断して床へ投げ捨てると、シュートはカースト中位の男子生徒のところへ近づく。シュートに睨まれた彼は今更ながらにシュートに意見したことを後悔する。


 「じゃあ今度はお前らに聞こうか。お前らは今まで一度でも、俺がこのクズどもに酷い虐めを受けていたところを、助けようとしたっけ?中里たちに、俺に酷い虐めをすることを止めてやれ…なんて言ってくれたっけ?

 誰か一人でも俺をこいつらの虐めから助けよう、なんてしてくれたか?というかむしろ、面白がってる奴もいなかったか?俺が暴力を受けてボロボロになったのを見て陰で笑ってたよなぁ?」


 誰も何も言わない、言えないでいる。図星だからだ。誰もが青ざめた顔で俯いている。紅実だけは悔しそうに俯いていた。


 「俺が虐められるのは良くて、こいつらのことは庇おうとするんだ?つまり俺はお前らにとっては良い見世物だったってことか……。

 それはそれは……大変クソムカつくことだなっっ」


 ガスッ、ドガッ「こふぅ!?あ”っ、が……っ」


シュートはカースト中位の男子生徒に詰め寄ると、容赦の無い膝蹴りをその腹に2~3発入れる。彼の腹に入れたシュートの膝は腹の中の骨が折れる感覚を捉える。事実、男子生徒の肋骨が何本も折れており、彼は痙攣を起こして倒れ、血が混じった涎を垂れ流す。


 「お前知ってるからな?お前がいちばん、俺のこと笑ってたよな?俺は覚えてたからな?傍観者じゃ飽き足らず俺を笑いものにしたことを……!お前も世の中に要らないクズ野郎だ!」


 ドゴォ  「ぐ、ぅぼえぇ……っ」


 胃の部分を蹴りつけたことでカースト中位の男子生徒の口から血と胃液が混ざったものが大量に吐き出される。


 「クソモブは黙って這いつくばってろよ。それとお前らも、中里やこの二人と同じように、“壊して”やろうか?」


 男子生徒を踏みつけながら全員に憎悪の目を向けるシュート。睨まれたクラスメイト全員は一言も喋らなくなった。シュートは新たに溜まった鬱憤の分も込めて、大東を盛大に痛めつけるのだった。


 ガッ、グチャ 「うあ、あ”あ”あ”」

 ベリィ、ゴリィ 「あ”べげらあ”あ”あ”」

 ブチィ、ブチィ 「い”あ”あ”あ”あ”あ”」


 中里と谷本と同じように、シュートは大東に対して思いつく限りの生き地獄を味わわせた。大東が何度も謝罪の言葉を口に出してもシュートは何一つ耳を貸さなかった。大東を壊すことしか考えていないシュートは、大東が完全に壊れるまで壁へ何度も叩きつけた。


 「………ひゅー、ひゅー……っ」

 

壁への叩きつけループに飽きたシュートが解放した頃には、大東大介は虫の息で大変危険な状態となっていた。全身血だらけで呼吸もロクに出来ていない。放っておけば心肺停止状態になり得る状態だ。

 その惨状を見た生徒の何人かは泣き出したり嘔吐したり、窓から逃げようとしている。逃走しようとするクラスメイトたちはシュートが即座に窓から引き剥がして手足を壊し、逃げる意思をも壊した。


 「復讐、三人完了」


 そう呟いたシュートは、教室の隅でずっと縮こまっている後原健に目を向けて、彼のところへ近づいて行く。

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