二十話「俺には何の関係も無い」

*残酷な描写注意回





 「え………?」


 サニィはシュートの唐突な質問に戸惑う。シュートは倒れて動けなくなっている盗賊たちに目を向けたまま問いかけを続ける。


 「いや、相手はこんなでも人間ですし…。さっきまでのモンスターどもと同じように殺すのはまずいかなーって思って。こんなどうしようもなさそうなクズどもでも、見た目だけは人間ですから、殺したらこの世界でも殺人罪として扱われるんじゃないかなーって思ったんで、見ての通りまだ生かしておいてます。

 サニィさん、俺はこいつらを正当防衛として殺しちゃっても、この異世界では罪にはならずに済みますか?俺は犯罪者なんかにならずに済みますか?」


 ジロリとした視線で問いかけるシュートに対し、サニィは畏怖の情念を抱いた。初対面の時とは別人のようにすら感じられる程のシュートの変化。しかし理性はしっかり存在する子であることははっきりしていた。彼は冷静に、盗賊をモンスターと同じように「討伐」して良いのかどうか尋ねてるだけである。

 一方のシュートは、こんな盗賊連中などモンスターと同じように「処理」しても良いのでは、と考えている。しかし同時に人を殺すという事態について考えさせられてもいた。もし踏み込んでしまえば、自分は何か変わってしまうのでは、と思うのだった。


 (でも、あいつら俺たちを殺そうとしている。だったら俺が殺したらダメってことには、ならないよな?こっちも命がかかってるんだし)


 それに何よりも、シュートは盗賊たちのような人間を滅ぼしたいと考えていた。死ぬ程嫌い・憎んでいる人種である彼らはこの世には必要無い。罪に問われないのならこの手で殺してみたい、と考えていた。

 やがてサニィはまだ戸惑いを隠せないまま返答する。


 「わ、私にも分からない…。でも、盗賊たちをと、討伐してくれたら……少なくとも私たちの命は助かる、ことになるわ」

 「なるほど。分かりました」


 何がなるほどで何を分かったのか、サニィは尋ねようとしたが、そうする前にシュートは残りの盗賊たちへ近づいていった。リーダーを含む盗賊は残り六人である。


 「な、仲間五人を一瞬で……しかも素手だと!?」

 「なぁ、あの男の方めちゃくちゃ強いんじゃねーか?俺たちでやれるのかよ?」

 「はっ!こっちはまだ六人残ってんだ!囲って一斉に斬りかかれば八つ裂きするのに手間かからねー!」


 弱気になりそうな空気を払拭してシュートを殺すことを決めた盗賊たち。そのリーダーはイライラした様子で見ている。


 「あんな男一人に俺たち盗賊が舐められてたまるか!男はさっさと殺してしまえ!!」


 リーダーの命令を受けて盗賊たちはシュートを囲い込んだ。そのまま徐々に輪を縮めていく。


 「本当に現実世界とそっくりだな。自分一人じゃ度胸も力も無いから、そうやって同じクズ人間同士で群れて、人を虐げようとするところが」

 「なんだと…?」

 「しかもこの異世界だと強盗はもちろん、殺そうとまでするんだから、どうしようもなく腐り切った人間だな、まさに!」


 シュートの貶し言葉に盗賊たちが怒り狂った目をしていく。


 「さっきからべらべら何か言いやがって……!」

 「だがこれだけは分かるぞ、あの野郎俺たちを貶してやがる!」

 「まずは脚をぶった斬るぞ!次に腕も斬り落として何も出来なくしてやろう!」

 「そうだ、そうした後はこの野郎の目の前であの女で楽しもうぜ!俺たちに逆らったことを後悔させてやるんだ!!」

 「くくく、そう思うと楽しみになってきたなぁ!」


 怒りに満ちた目をしながらもシュートたちを絶望のどん底に突き落とすことを想像して下卑た笑いを上げる盗賊たち。それを見たシュートは以前のカツアゲ不良たちや中里たちの影がちらついてしまってますます不快感や苛立ちを募らせる。


 「殺るぞぉ!!」


 盗賊六人が一気に輪を縮めて、同時に武器をシュートに振り下ろそうとする。シュートは上へ跳躍して、そのまま空中に浮くことで彼らの攻撃を回避した。


 「は!?」「空に浮いてるだと!?」「嘘だろ!?」


 空中浮遊しているシュートを見た盗賊たち全員が目を剥いて驚く。サニィもたいそう驚いていた。一方シュートは氷のように冷たい視線を盗賊六人に向けたまま、手加減無しの電撃魔術を落雷のように撃ち放った。


 「「「「「ぎゃあああああああ……っ」」」」」


 黄色の閃光が六人全員を無慈悲に撃ち抜き、全身を感電させた。電撃は10秒程続き、終わると全員黒焦げ状態になっており、煙が出たまま力無く倒れていく。電撃の威力は凄まじいもので、腕や脚が吹き飛んで欠損している者もいた。


 「………っ」

 「な、あ、あ……………」


 サニィはその惨状に口を押えて声を詰まらせ、残る一人となった盗賊のリーダーは悪夢を見ているかのように脂汗を大量にかいている。


 「あ………全員まだ生きてる。でもあの状態のまま生かされる方が辛いかもな。でもあいつら人間のクズだし、別に良いよな、あのままで」


 誰に向けたのか分からない言葉を呟いて地面に降り立ったシュートは、自分が冷静にそう言ったことに少し驚く。人をあれだけ壊しておいて何故こんなにも平然としていられるのか。相手が皆人間のクズだからなのか。

 色々考えながら冷たい視線を盗賊のリーダーに向ける。シュートに睨まれたリーダーは命の危機を察して顔を青くさせる。そして慌ててすぐ後ろにある馬車の覆っている布をはがす。その中には年端もいかない子どもが数人閉じ込められていた。


 「あれは、別の村の子どもたち!?この盗賊、人攫いもやってたの!?」

 「へ、へへへ……そうだ!俺たちは別の村でひと盗みしてからここまで来たんだ。そしてこのガキどもは商品……奴隷商に売りつける予定の奴らだ!だが今は……別の使い道として利用させてもらうぜ……!」


 盗賊のリーダーはギラリと光沢を放つ剣を抜くと、一人の子どもを自分の方へ引っ張り、その子の首に剣を当てた。


 「このガキどもは人質だ!!俺を殺ろうってんならこのガキをまず殺す!さぁ武器を捨てろ!さっきの魔術も使うんじゃねぇぞ!?」


 血走った眼で人質を取って優位性をとろうとする盗賊のリーダー。


 「うぇえええん!助けてぇえええええ!!」

 「うるせぇ!黙ってろ!!」


 人質となった男の子は恐怖で泣き喚いてしまう。


 「そんな……っ」


 そんな卑劣な行為にサニィはどうすることもできなく立ち尽くす。すると馬車の中から新たな盗賊メンバーが二人出てくる。この二人は今まで馬車の裏で隠れていた。


 「動くんじゃねーぞ、何もするんじゃねーぞ!お前ら、あの男をさっさと殺して、女を捕らえろ」


 リーダーに命令された盗賊二人はニヤニヤしながら剣や槍を構えてシュートに向かって歩き出す。


 「ど、どうしようシュートくn………え?」


 サニィがシュート目を向けたその時、彼女は信じられないものを見た表情をする。理由は単純、シュートが何の躊躇いもなく盗賊リーダーのもとへ駆け出したからだ。これには盗賊たちも予想外で、慌てはじめる。


 「お、おい!人質だぞ!?分からねぇのか!?これ以上来るなら、何かしようってんなら、こいつを殺すって言ってんだよ!」


 リーダーが制止するよう叫ぶがシュートは聞く耳持たずの態度だった。剣を向けられている男の子はガタガタと体を震わせている。


 「こ、のぉ…舐めやがってぇ!!コケ脅しじゃねぇんだよォ!!」




 ザシュ……ッ 「か……ひゅ………っ」




 そしてサニィが恐れていた最悪の事態が一つ起こってしまった。盗賊のリーダーは怒りに任せて男の子の首に剣を突き刺して、その幼い命を一つ消した。それを見たサニィはその場に頽れてしまう。同じ子どもの死を目の当たりにした檻の中にいる子どもたちはパニックを起こして泣き叫んでいた。


 「は、ははは……!散々警告したのに聞かねぇから、一人死んだぞ!いくら盗賊だからってガキを本当に殺さないとでも思………っつ!?!?」


 死んだ男の子を放り捨ててニヤリと笑うリーダーだったが、その顔を盛大に引きつらせた。何故ならシュートが尚も自分の方へ向かって来ているからだ。


 「な……てめぇどういうつもりだ!?人質はまだいるんだぞ――――」


 リーダーが叫びながら二人目の子どもに剣を突き刺す前に、シュートは彼との距離を一気に詰めた。


 「っうあああああ―――(ザクッ)―――がぷぁあ”あ”………!?」


 そしてシュートはナイフでリーダーの首を掻っ捌いたのだった。首から盛大に血を噴き出したのち、リーダーは呆気なく絶命した。


 「その子たちの命は、俺には何の関係も無い。人質とったところで別に俺には何の損失も無いっての」


 死んだリーダーに向かって、シュートは冷たくそう言い放つのだった。









*こういうのも「残酷な描写」ってことで良いよね?許されよ…。

*PV数11万突破! 星評価数700超(2022.5.13)

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