十四話「魔法だったりする?」


 顔面を殴られて地面を転がった傭兵だが、その手は大剣を握ったままだった。


 「………!」


 サニィたちはシュートがあの傭兵に拳を入れたことに驚きつつも、やってしまった…と気が気でなかった。素行が悪いが実力は確かだと評判の彼らを怒らせたら無事では済まない、それが皆の共通認識である。


 「や、ろぉ……!このダンデに一発入れるたぁな…!」


 大剣を持ったまま立ち上がったダンデという傭兵は、怒り心頭といった表情を見せる。彼から殺気が放たれる。


 (殺すな……と言ってもああなるともう聞かないだろうな、あの単細胞は)


 もう一人の傭兵…カロナは呆れた様子で二人の争いを見つめる。


 (あのガキ、ダンデの大剣をわざとギリギリまで引き付けていたように見えたが、まさかな)


 シュートの動きを見て彼がただ者ではないと予想するカロナだが、ただの偶然だと思い直す。しかしそれが偶然ではないことを、この後すぐに知ることになる。


 「お前は殺す。ギルドにはモンスターの襲撃で事故死したって報告してやる!」

 「あっそ」

 

 暴言を適当に聞き流したシュートは、剣を肩に乗せて余裕を見せる。その態度を目にしたダンデは激昂しながら再び駆け出す。今度はさっきとは違って少しジグザクに駆けて接近しようとする。見た目の割に細かい動きも出来る大剣使いの動きに、村民たちは息を呑む。


 「じゃあ僕も同じ動きをしてみようかな」


 ヒュババババババ

 

 「な………っ」


 対するシュートもジグザクな動きをして対抗してみる。途中ジグザクから反復横跳びの要領に変えると彼の残像が映し出されて、ダンデの目を惑わせた。傭兵二人も村民たちもその光景に驚愕していた。

 ダンデの後ろに回り込んだシュートは、その背中に肘鉄を思い切りぶつける。その際に骨にひびが入る音がした。


 「ぐ……このぉ!!」


 ダンデは振り向き様に大剣を横に振ったが当然のように回避される。その隙に彼の腕・脚・肩口・胴体がシュートの剣で斬り刻まれた。


 「ぐ、おおおあああ……!?」


 全身から血が噴き出して膝を地についてしまったダンデの顔面に容赦の無い蹴りが叩き込まれる。


 (さっきよりもよく斬れるようになってる。本気で斬ってたらたぶんバラバラにしちゃってたかも)


 また剣の動きが速く冴えていることを自覚したシュートは、自分がモンスターや傭兵との戦闘で成長していることも実感した。今の蹴りも重く強力なものとなっていた。


 「ぐ……んだよ、これ、ぇ…………っ こんな、ガキがいる、なんて………聞いてねぇ、ぞ」


 一方的に斬られ殴られたダンデは既に満身創痍となっている。


 「モンスターの素材は僕のものだ。分かったらもう僕に関わるな。殺すよ?」

 

 ダンデを見下ろして脅し文句を言ってみたシュート。殺す気はないものの、まだやるというのなら反撃が出来ないよう手足を完全に壊そうと考えている。


 「このダンデが、ガキにこれ以上舐められてたまる、かあああ!!」

 「はぁ……。じゃあもう活動できないよう壊すことにしよ」


 本格的に再起不能にしようとシュートが剣を向けたその時、ダンデの後方から炎の玉が彼目がけて飛んできた。咄嗟に剣で防御に成功。内心でシュートは驚いていた。


 「まさかダンデを一方的に負かすガキがいるとはな。しかしこのまま引き下がるわけにはいかないな」


 カロナは杖を向けた格好でそう告げる。その杖からは炎の残滓が出ており、彼が今の炎を放ったのは明らかだ。


 「い、今のってもしかして、魔法だったりする?」

 「?貴様、“魔術”を見るのは初めてなのか?どう見ても魔術攻撃だろうが」


 ここは剣と魔法のファンタジー異世界なのだと、シュートは改めて痛感したのだった。因みに魔術のレベルには一位階、二位階、三位階とランクがいくつかある。上級者でも三位階がやっととされている。カロナの魔術レベルは二位階だ。魔術の種類も炎や雷、風など豊富に存在するとされている。


 「し、シュート君!その魔術師も凄く強い人で、魔術の実力は二位階なの!だからこれ以上はもう……」


 サニィが再び引き下がるよう勧告するがシュートがそれに従うことはなかった。


 「殺すまではしないが、今後戦士としての活動が不可能になるくらいには痛めつけておく必要があるな」

 「………………」


 今度は魔術師カロナとの戦闘となったシュート。カロナの魔術杖からさっきと同じ炎の玉がいくつも放たれる。今程度の強さでは素手で対処は出来ないと判断したシュートは、剣で炎の玉を斬って防いでいく。しかしその剣に異変が。


 (やばっ、この剣もそろそろ壊れる……っ)


 度重なる戦闘とカロナによる炎攻撃で剣が壊れそうになっていた。


 (魔法…いや魔術、か。僕にもできるのかな?でもどうやって……)


 飛んでくる炎を避けながら、シュートは自分も炎の魔術を放つ想像をする。自分の手から炎の玉を放って敵を焼くという想像を。

 するとしばらく経ったところで、シュートに思いがけない「気付き」が生じた。


 「え………スキル“魔術(炎)”だって……!?」

 「「?」」


 シュートのリアクションにカロナやサニィたちは首をかしげる。本当にスキルを体得したのか、シュートは試しに手を前に突き出して、炎を放つイメージを浮かべる。すると―――


 ゴォウ! 「うわっ、本当に出てきた!?」

 「は………?」

 「あ、あれって、炎の魔術…!?どうしてシュート君までが!?」


 自分の手から炎が出て驚くシュート。予想もしない事態に思わず声が漏れ出たカロナ。同じように驚愕するサニィたち。本人も含む誰もがその事態を目にして驚愕していた。


 「馬鹿な!?魔術師でもない貴様が、なぜ魔術が使える!?しかも、杖も無しに、だと……!?」

 「……………まぁ、実は使えたってことで」

 「く、ふざけたことを……っ」


 ここにきてシュートに明確な苛立ちを募らせるカロナ。彼が魔術の二位階に到達するのにどれだけの時間を費やしてきたのか。それによるプライドがあるカロナにとって、自分より年下の子どもがあっさり魔術を使っていることに憤りを覚えていた。

 しかも魔術を放つ場合、二位階までの者は魔術杖を媒体にする必要がある。二位階の上級者になってようやく杖無しで魔術が放てるようになるのだ。それをあっさりやってのけたシュートに、カロナはさらに怒りを募らせた。


 (よくわからないけど、頭の中でイメージしたら魔術が使えるようになるみたいだ!)


 それならと、シュートは雷や風が出るイメージをしながら手を突き出して力を籠める。しかしいつまで経ってもそれらが出ることはなかった。


 「………あれ?」


 代わりに炎ならいくらでも出てくる。


 (……………もしかして、あいつの炎を見たから、僕も炎が出せるようになったのか?それなら、あいつからもっと魔術を引き出してみよう)


 そう予想したシュートは、カロナを煽ってみる。


 「おい、魔術はそれだけなのか?炎以外何か出せるのかもっと見せてくれよ」

 「余裕をかましてられるのも今のうちだ!」


 挑発にまんまと乗せられたカロナは、魔術杖から電撃や水の弾、土の弾といった魔術を放ってきた。それらを剣や炎魔術で何とか防ぎいなしてから、シュートは今見た電撃を、水を、土を記憶してそれらをイメージして意識を集中させる。

 しばらくしてシュートの脳内に次々と「気付き」が生じる。全て新たな魔術の体得の気付きだった。

 そしてシュートの手から電撃、水の弾、土の弾が次々と放たれた。



 「馬鹿、な………複数の魔術を、こんなガキが………」


 カロナは放心状態寸前だった。だからシュートがあっという間に距離を詰めてきていたことへの反応が遅れてしまった。


 「~~~っ!」

 「お前のお陰で、俺も魔法…いや魔術が使えるようになった。ありがとな。その礼に、この一発で勘弁しといてやるよ」


 ガンッッ 「っが、ぁ……」


 シュートの拳が顔面にモロに入り、村の入り口まで吹っ飛ばされたカロナは、そのまま意識を手放してしまった。

実物を見て記憶した状態で、自分も同じように放つことを想像したことで、シュートは魔術も体得出来るようになっていた。この日からシュートは魔術による攻撃も可能となった。


 「何が管轄しているから利益は自分たちの物、だ。そういう理不尽は絶対に受け入れないし、許さない」


 学校での虐めやコンビニでのカツアゲのことを思い起こしたシュートは、忌々しげにそう吐き捨てた。







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