十二話「vsブラッドウルフ」


 シュートが相手するのは三匹のブラッドウルフ。それらはシュートを嗅ぎ分けると険しさを増した唸り声を出す。シュートからレッドドッグの血が臭うからだ。彼が仲間を殺したのだと判断して、一匹目が一直線に襲い掛かってくる。

 ウルフの全速力は軽自動車を追い抜く程だが、シュートの目はそのレベルですら余裕で捉えられるようになっていた。ウルフの爪と牙を全てギリギリで躱して、がら空きとなったその横腹に木こりの斧を全力で振るった。


 「おっらあぁ!!」


 ドッ…ザシュウ!!


 スキル「怪力」による馬鹿力と「剣術」による巧みな武器使いが合わさったことで、ブラッドウルフの胴体を容易く分断してみせた。


 「―――――ッ……………」


 ウルフは自分の身に何が起こったのかすら把握していないまま絶命した。その上半身は自分の血でびしょびしょに濡れていた。


 「な……っ」「嘘だろ?」「あのブラッドウルフを一撃で…!?」


 離れたところから見ていた村民たちはシュートの活躍に驚愕していた。


 「し、信じられない……。あの子、初心者の傭兵じゃなかったの…?」


 サニィも他の人たちと同じ感想だった。シュートはいったい何者なのかと戸惑うばかりだった。


 一方、最初の一匹目を討伐してみせたシュートは、残る二匹のブラッドウルフに挟み撃ちされていた。ウルフたちは仲間があっさりやられたことに憤慨しつつ、目の前の敵が侮れないと無謀に突っ込まないようにしている。力はもちろん知能もレッドドッグより数段優れている。

 前方にいるウルフが爪で真っ向から攻撃する…と思いきや斧の間合いに入る直前で突如後ろへ跳び下がった。フェイントをかけられたのだ。

 見事に引っかかってしまったシュートは斧を空振りしてしまい、後ろにいたウルフに爪で攻撃される。


 「うわっ、くそ……!」


 座高がシュートの身長と同じくらいの高さがあるウルフの重い一撃に吹っ飛ばされたシュートは、前にいるウルフの追撃の範囲に入ってしまう。向かい来る牙攻撃を斧で受け止める。


 「っつ……デカい分、力があるな。僕の力じゃまだ余裕こけな、い…!」


 ギリギリと拮抗して埒が明かないと判断したシュートは、全力の蹴りをウルフの腹に叩き込んだ。その威力は体重が百数kgあるブラッドウルフを容易く打ち上げる程に達しており、ウルフに大ダメージを負わせた。


 「~~~~~!」

 「あーもー、ギャンギャンうるさいな!耳障りなんだよその吠え声が!!」


 ザンッ


 止めの斧の振り下ろしがブラッドウルフの脳天をかち割り、二匹目の討伐に成功した。しかし同時に武器としていた木こりの斧も根本から折れてしまい、使い物にならなくなってしまった。


 「おぉーい!武器を持ってきたぞぉ!」


 シュートの斜め後ろ方向から男の声が上がる。見るとさっき鍛冶屋へ向かった男が一本の剣を手にしていた。


 「こっちに投げてくれ!」


 シュートの言う通り男は思い切り剣を投げて渡す。その方向へシュートは駆け出して、剣を器用に受け取った。その際背中を見せてしまったことで三匹目のブラッドウルフが咆哮しながら全速力で駆けて襲い掛かる。


 「――――っ」


 シュートは一か八か勘で横へ跳んで、ウルフの一撃をギリギリで躱してみせた。その直後、新しいスキルを体得した。


 (“近未来予知”……数秒後に起こる出来事を正確に予知できる、だって!?)


 また強力なスキルが手に入ったと、シュートは内心喜んだ。振り向くとウルフが間髪入れずに次の攻撃を繰り出していた。対するシュートはこれを余裕もって躱してみせる。早速「近未来予知」でウルフの行動を予知したのだ。


 「よし、僕の番だ!」


 剣を高速で何度も振るって、ウルフをズタズタに斬り裂き、そのまま討伐してみせた。これでブラッドウルフは全て討伐された。


 「ブラッドウルフをたった一人で……」

 「しかも三匹も!?」

 「す、凄い……っ」


 シュートの活躍を目にした村民たちは改めて驚愕し、誰もがシュートを畏敬がこもった目を向けていた。誰も予想出来ていなかった。未成年の傭兵少年(そう勘違いしている)が中級レベルの傭兵でも手を焼くような敵の群れをたった一人で制圧してみせたことを。


 「ほ、本当にブラッドウルフを全部、倒しちゃった……」


 サニィは家の中から飛び出して、その事実に胸を高鳴らせながら、シュートをじぃっと見つめていた。


 「強いのを先に全部片づけちゃったな。まぁいいや。後は雑魚の掃除っと」


 群れのリーダー格が全て討伐されて完全に浮足立ったレッドドッグたちを、シュートは容赦無く斬り込んでいった。


 ズバッ、ズバンズバババッ


 (さっきよりも剣を軽く速く振るえてる気がする)


 レッドドッグを次々に斬り伏していくうちに、剣速が上がったことを自覚するシュート。敵と戦っていくうちに強くなったのでは、と自身に期待していた。

 向かってくる敵がいなくなったのを確認したシュートは、動きを止めて一息つく。彼の周囲はレッドドッグの死骸と血が散乱しており、中々の凄惨な雰囲気を出していた。これで終わった……かと思ったシュートだが、すぐ傍にまだ生き残りがいることに気付く。


 「クゥウウン………」


 レッドドッグは脚から血を流しており、頭を伏せて地面に蹲っている。一匹仕留め損ねていたようだ。トドメを刺そうと剣を構えて近づこうとしたところに、シュートを呼び止める声がかかる。


 「そのモンスターは、君に服従しようとしているぞ!」

 「………服従だって?」


 初老の男性がそう言いながらシュートに近づく。危険はもう無いと確信しているようだ。


 「そのモンスターのように、屈服したモンスターは戦士に平伏して忠誠を誓うことがあるの。滅多にないことだけど……。忠誠を誓ったモンスターは使い魔として使役することが出来るのよ」 


 いつの間にか近くまで来ていたサニィが説明してくれる。モンスターはもう完全に敵意を喪失しており、クウゥンと鳴いて服従する意思を示している。


 「………………」


 ヒュ、ザシュウ! 「ギャウン!?……………」


 しかしシュートは、そんなレッドドッグの服従意思を目にしても躊躇うことなく、その腹に剣を突き刺して止めを刺したのだった。


 「「………!?」」


 これにはサニィも初老の男性も唖然としていた。


 「モンスターを使役?使い魔?馬鹿馬鹿しい。モンスターだっていつかは汚い人間みたいに裏切るに決まっている」


 口ではそう言ったシュートだったが、その本音としては、シュートは犬が大嫌いだから殺した、という理由に尽きるのだった。


 「とにかく、これでモンスターは全部討伐したはずです。もう大丈夫ですよ」     

 「う、うむ…。この村と人々の命を救ってくれてありがとう。村長の身として深く感謝する!」


 初老の男性…トッド村の村長は、シュートに頭を下げて感謝の言葉を述べたのだった。


 「助かったぁ!」

 「あんな数のモンスターの襲撃は初めてだった!」

 「君!まだ未成年の見た目なのに凄い強いな!」

 「本当にありがとう!」

 「こんな強い傭兵が来てたなんて!」


 周囲にいた村民たちもシュートに感謝の言葉を投げかける。さっきまでは変な目で見ていたくせに、調子がいいもんだな、とシュートは面白く無さげだったが、とりあえず彼らの歓声に応じてあげたのだった。


 「シュート君、実は凄く強かったんだね。私びっくりしちゃった。君のこと侮ったこと言ってしまって、ごめんね?」

 「いえ、別に……」


 サニィはシュートの前に立ち、戦闘前に言った言葉について謝罪する。その後他の人たちと同じように村を助けてくれたことへのお礼を言った。その際距離が近いことにシュートは気になり、顔を逸らしてしまう。


 「シュート君、もし良かったらなんだけど………」


 そしてサニィが微かに上気した様子で何か言おうとしたその時、安堵と歓喜に包まれたムードに水を差すような声が上がった。


 「朝からいったい何の騒ぎだぁ?」





*作品フォロワー数1000人感謝!(2022.5.3)

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