いずれ【魔術皇帝】へと至る少年は攻撃魔術が使えない!〜魔術の才能はありませんが、美少女な大賢者から禁忌の力【術式改変】を教わったので容赦なく無双します〜

月夜美かぐや

第一章【少女との出会いとアルスの成長】

1. 僕は『雷の賢者』の子孫です

 遥か昔、まだ魔術が珍しいとされる時代。

 災厄の混沌とも呼ばれる悪の権化『魔神王』と、手下である魔族の大軍勢が人々の世界へ侵略してきた。


 人々は抗うため剣を握り矢を放ったが、圧倒的な力の前になす術はなく蹂躙されていく。

 もはや希望など残されていないと絶望の淵に追いやられた時、立ち上がったのは『賢者』の称号を持つ五人の魔術師たち。


 爆炎の広範囲魔術で大群を焼き払った『炎の賢者』。

 氷結の大魔術で軍団ごと永久凍結させた『氷の賢者』。

 大地を変形させ戦況を有利に導いた『地の賢者』。

 癒しの魔術で傷付いた人々を治癒した『光の賢者』。

 そして最も火力に秀でた雷の魔術を用いて、将軍格の魔族全てを葬った『雷の賢者』。


 死闘の末、賢者たちの活躍により魔神王は討伐。

 魔族の大軍勢は敗北する。

 その後、彼らは『五聖賢者』と名乗り、魔術を広めるべく『マナシエル帝国』を建国した。


 これが今日まで語り継がれている歴史。

 子供でも知っている有名な話だ。


『五聖賢者』は魔術師たちの憧れの象徴となる。

 中でも魔神王へトドメの一撃を与えた『雷の賢者』は一際英雄視され、人々に崇拝されていた。


 そして僕、アルス・ゼクシアはその『雷の賢者』の子孫として生を受けたのだ。



 ◇



『五聖賢者』たちとその子孫たちの奮闘もあり、現代では【大魔帝国】と呼称される世界一魔術の発展した国となったマナシエル帝国。


 もうすぐ建国されて五百年になるが、未だ栄誉ある【魔術皇帝】の座に就いたものはいない。


 理由は『五聖賢者』たちの予言が遺されていたからだ。

 内容は【『魔神王』討伐により五百年が経過した頃、玉座へと至る最強のが現れる】というものだ。


 最強のとは誰のことなのか。

 はっきりと明記されていなかったため、魔術師たちは皆【魔術皇帝】に憧れ、我こそはと夢を抱いていた。

 もちろん、僕もその一人。


 ——雷魔術を極めて、必ず【魔術皇帝】になる!


 そんな志を持ち十二歳を迎えた僕は、今日帝国の属性検査を受ける。

 自分に適性のある属性を知り、魔術学院に通うこととなる十五歳までに各々鍛錬を積む。

 それがマナシエル帝国の教訓だ。


 会場である教会に入ると、すでに他の子たちが並んで検査を受けていた。

 僕は一緒に来てくれた父様と並んで順番を待つ。


「あ、あれはゼクシア家の御当主様」

「……ということは、隣はアルス様か」


 会場に足を踏み入れただけで、周囲の魔術師たちから注目を浴びる。

 さすがは『五聖賢者』の血筋。

 周囲からの期待も大きいため、さすがに少しばかり緊張してしまう。


「チッ。奴も来ておるのか」


 父様が冷たく言い放った視線の先にいるのは『炎の賢者』の子孫、プロメテ家当主とその息子アグニス・プロメテだ。

 どうやらちょうど属性検査を受けているところらしい。


「アグニス様は『炎』の属性に適性があります!」

「「「オオオオオオォォォォォォォ!!!!」」」


 アグニスは勝ち誇ったようにガッツポーズをし、笑みをこぼす。

『炎の賢者』の血筋の魔術師が『炎』の適性を得る。

 ごく普通のことのように思うかもしれないが、予言の日が近付いているこの状況。

 アグニスは【魔術皇帝】へ至る道へ大きく前進したことになるのだ。


 僕は大丈夫だろうか。

 いや、きっと大丈夫に違いない。


 冷や汗を拭うと父様に気付かれ、声を掛けられる。


「アルスよ、まさか緊張しているのか?」

「……はい。『雷』以外の属性だったらどうしようかと」

「ハハッ。そんなことあり得んだろう」

「あり得ないですか?」

「あぁ。予言の日が近い中、お前は最強である『雷の賢者』の血を引く魔術師だぞ?」

「そう……ですよね」

「ワシは『炎』の適性と残念な結果に終わってしまったが、お前なら大丈夫だ。ワシみたいなドジはせん」

「ドジって。父様は帝国でも指折りの特級魔術師じゃないですか」


 優しくニッと微笑む父様。

 現代魔術師の最高峰である『特級魔術師』。

 その一柱である父様がこれほど信用してくれている。

 何も心配するはない。

 

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせていると、ついに僕の番が回ってくる。


「次は……アルス・ゼクシア様」

「はい!」

「アルスよ、自信を持って堂々と行ってきなさい。【魔術皇帝】になるのだろう?」


 父様の言葉に背中を押され、僕は一歩ずつ踏みしめながら前進する。

 周囲の目が一斉に注がれているのを感じる。

 間違いなくその目は崇拝と期待。

 先程ガッツポーズを決めていたアグニスですら、僕の結果が気になるらしくジッと目を凝らしていた。


 舞台上になっている前方には属性検査装置である、巨大なクリスタル壁が置かれている。

 この壁に手をかざし魔力を流し込むと、最も高い適性が浮かび上がるという仕組みになっている。

 僕が手を触れるとクリスタル壁から眩く白い輝きが放たれた。

 

 女神様。

 どうか僕に『雷』の適性を。

 もし……本当に万が一、いや億が一にも『雷』でなかったら……。

 いや、考えるのはよそう。

 僕は歴史上最も偉大な英雄『雷の賢者』の子孫なのだから。


 熱い志と覚悟を胸に僕はクリスタル壁に魔力を流し込み続ける。


 やがて水晶の輝きが少しずつ弱まり、壁に文字が描かれていく……はずだったが。


「……こ、これは。どういうこと?」


 不穏な空気が漂い、周囲が騒つき始める。

 文字は何も浮かび上がって来ない。

 

「司祭殿。我が息子の結果、これはどういうことか?」

「は、はい。えっと……その……」

「はぐらかすな。全属性に適性があったか?」


 全属性に適性なんてそんなはずはない。

 父様は最後まで僕のことを信用してくれているらしい。


「アルス様の適性は……ありません」

「……は?」

「で、ですから、適性がなく、魔術が使えないんです」


 絶対に聞きたくなかった言葉。

 その場にいた誰もが信じられないと言った表情した。

 父様は司祭が冗談を話していると思い込んでいる。

 神聖な場で無礼を行うはずがないのに。


「ハハッ! これは傑作だ。まさか司祭殿ともあろう方がこのような冗談を言うとは」

「じょ、冗談などではございません。残念ですが結果はクリスタル壁に示された通りです。」

「ありえん! 絶対にありえん! こんなガラクタで何を信じろというのだ!」


 父様は怒り狂い、爆炎魔術をクリスタル壁に向けて放つ。

 こんなにも怒った父様を見るのは初めてだ。

 厳しさの中に優しさがあり、紳士的でかっこいい父様。

 それが別人のように思えるほど、とても怖い形相をしている。

 そして特級魔術師である父様の魔術を持ってしても、クリスタル壁は一切傷付かず、教会内で黒煙が吹き荒れた。


 「クソッ! クソッタレッ!!」

 

 父様は最後にそう言い放ち、僕に目をくれることもなく会場を後にする。


 「父様……。僕は……【魔術皇帝】に……」


 その言葉に静まり返っていた会場で笑いが起こる。

 高笑い、嘲笑い、蔑む言葉まで飛んでくる。

 先程までとは天と地の差の対応に、胸が締め付けられるように苦しくなり、僕はその場から逃げるように駆け出した。


「うわ、だっせぇ。魔術も使えないゴミが逃げてくぞ」


 アグニスの一言で、笑いは更に大きくなる。


 聞きたくない、聞きたくないよ。

 父様……助けてよ。


 だけど追いかけた先で父様が僕に向けた目は冷たく、軽蔑しきったものだった。

 何も言葉は発しなかったが『一族の恥さらしめ』……そう語っているのは明白だ。




 ただこの時、会場にいた誰もが気付いていなかった。

 司祭様も父様もそして僕ですら……。

 

 特級魔術師である父様ですら傷一つ付けれなかったクリスタル壁。

 そこへ僕が魔力を流し込んだだけでヒビをいかせていたことに。



======================

【★あとがき★】


まずは読んでいただきまして、ありがとうございます。


ストックはあるので、毎日投稿していく予定です。


もし良ければ、広告下からフォローと星を入れていただけますと、とてもうれしいです。


よろしくお願いいたします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る