おめでとう

みゆたろ

第1話 キリ番

「おめでとうございます」


 そんな言葉と共に、店内をファンファーレが流れた。


 まだ店内に入ったばかりだと言うのに、一体何が起こったというのか?

 状況が飲み込めないでいると、店員の一人が言った。


「あなたは本日の来場者、1500人目になりましたので、ステキなプレゼントを企画していますので、お帰りになる際には、声をかけてくださいね」


 従業員はスマイル100%だ。


 ーー1500人目で、プレゼントか。何がもらえるんだろ?


 急にワクワクした感じになってきた。


 来客は、クラッカーで私の事をもてはやした。

 店員たちからは、立派な赤い薔薇の花束をもらい、嬉しさがこみ上げてくる。


「おめでとうございます」


「あ、ありがとうございます」


 見ず知らずの人でさえ、そんな風に声をかけてくる始末だ。

 相当、イイモノがもらえるのかも知れない。


 私は大きな希望に胸を膨らませた。

 ご飯を食べ、店を出る前に店員に声をかける。


「帰る時には声をかけて!と言われたので、声をかけました。帰ります!」


「あ、少しお待ちください」


 ※


 店長「長野正樹」と言う名札をつけた人がいう。


「こちらへ、どうぞ」


 長野正樹という店長さんについて行く。

 目的地も、そこで何をするのかもわからない。

 ただ希望に満ちている事だけは確かだ。


 細く薄暗い道を歩いている事に気づくと、だんだんと「不安」や「恐怖」を感じ始めていた。


 ーーどうして、こんな場所に来ているんだろ?

 ーー私は一体、どこへ向かわされているんだろ?


 店長さんは、外に出てから一言も言葉を発さない。

 なぜ黙っているのか?

 もはや「不安」しか感じられない私がいた。


「あの、すいません!ーーどこに向かっているんですか?」


 不安を感じながら、私は聞いてみる。

 だが、店長は口を閉ざしたまま、何も答えてくれなかった。


 募る不安。 

 そして恐怖。


「日常」から「非日常」に弾き飛ばされたような気分になる。

 そして孤独ーー。


 ※


 薄暗さが深くなっていく。ここは一体何なんだろうか?

 不気味過ぎる雰囲気に呑みこまれていく。

 そんな時、店長が突然、口を開いた。

 

「お客さん、到着しましたよ?」


「ココはーー?」


 キョロキョロとあたりを見渡す。

 しかし、何もない。ただ鬱蒼とした森が広がっているだけだ。


 ーーは?

 ーーこの人、何を言ってんの? 

 ーー何にも無いじゃん?何がプレゼントなの?

 私は店長の顔をマジマジと見つめる。

 

「お客さま、こちらがプレゼントです!」


 店長はニヤリと不気味な笑みを浮かべ、そして店長は、突然、私に銃口を向けた。


「お客さま、サヨウナラ!」


 ーー何なの?

 ーーそもそもプレゼントなのに、サヨウナラ!って意味がわかんないし。


 店長は再び、私に言った。

「サヨウナラ」と。


 ーーバァァン。


 体が熱い。

 一体、何が起こったのか、理解するまでに時間がかかった。


 地を這うように、私の体から力が抜けていく。

 体が熱い。

 ーーそうか、私は撃たれたのだ。 

 あの店の店長だと言うこの男にーー。 

 ようやくの思いで、私は今目の前で起こっている事のすべてを理解した。


 ーーこんなのおめでたくも何ともない。


 私はその場に突っ伏すようにして倒れた。



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