第3話

それから、神戸と会う約束をした日が来た。

あんなに会っていたのに、約束を交わして会うのは初めてなので何か変な感じがする。


待ち合わせは四条にある百貨店の前。

行ってみると薄明かりの中、神戸がすでに待っていた。

「待たせてごめん。」

すると神戸は相変わらずの感情が読みにくい表情で答えた。

「いや、別に・・・。そっちは仕事帰りなんだから。」

「ありがと。・・・ところで、神戸の家ってどこ?ここから近いわけ?」

「四条烏丸付近。」

「へぇ~、いいところに住んでるね。」

「店から近いから。部屋は狭いけど。」


意外と出不精らしい。

そんな新たな一面を見つけつつ、私たちは神戸の家へと向かった。


歩くこと数分、細長いマンションにたどり着いた。

神戸曰くまだ新しいマンションらしい。なかなかいい物件だ。その中で神戸の部屋は、最上階に近い端陪屋だった。


「おじゃましま~す。」

部屋に入ると俺がイメージした神戸の部屋そのものだった。

物は少なく、大きなソファが部屋の真ん中に置いてあるだけ。

ただ、大きな本棚がひとつあったのだったが、そこには料理関係の本がぎゅうぎゅうに詰められてあった。

これも神戸らしいなと思わず笑ってしまうと、神戸は不機嫌な顔をした。


「なによ・・・。」

「いや、神戸っぽい部屋だなと思って。」

「・・・・・悪かったわね。」

「褒めているんだよ。」

「それは、ありがとう。」


神戸はぶっきらぼうにそう言うと早速キッチンに向かった。セパレートになっているが、キッチン自体は狭いようだ。

料理を普段しない私の部屋の方が広い気がするのでなんだか宝の持ち腐れだと思った。


「座っておいて、すぐ作る。」

「へーい。」


そう言われ座ること数分。

いい香りがしてきて、お腹の音が思わずなってしまった。

するとタイミングよく神戸が料理を持って現れた。

どうやらパスタのようだ。なんだか洒落たソースがかかっている。

「へぇ、なかなか早くできるんだな。さすが。」

「まぁ・・・これくらいなら。」

食べてみると、これがまた美味しかった。

ソースはトマトソース系で丁度、私好みだったというのもあるのだろうが、こんな美味いものが短時間でできるんだから、やはりプロなんだなぁ・・・と今更ながらに実感した。


「どう・・・?」

神戸が珍しく恐る恐る聞いてきたので私はもちろん笑顔で答えた。

「美味いよ!!やっぱり神戸ってすごいね!!」

それを聞いて神戸は安堵したのか、少し表情が和らぐ。

その表情がなんとも可愛く思ってしまった。


「神戸って、料理のことになると可愛いね。」

思わずそう言ってしまうと、神戸はこれまた可愛らしく顔を真っ赤にして怒った。

「な、なによ!!それ!!」

「いや・・・いつもクールなのに。料理のことになると・・・なんだか。」

「冷やかさないで!」

「ははは、ごめん、ごめん。」

そう拗ねる姿もなんだか可愛い。

同性にこんなにも可愛いなんて思ったのは初めて。でも不思議とそう思ってしまった。

「でも、ほんと、これは美味しかったよ。」

「・・・・・。」

「ねぇ、また神戸の家きていい?」

それを聞いた神戸は目を丸くした。


いや、それ以上に私自身が驚いていた。思わず言ってしまったけれど、なんだか変。

こんなこと言うなんて。

しかし、これは、私のすごく正直な気持ちだった。

もっと神戸の料理を食べたい。もっと神戸と話したい。

不思議とそう思ってしまった。

やっぱり私って変。すると神戸がうつむきながら答えた。


「熊谷が嫌じゃなければ・・・私は構わない・・・。料理も色々試食してくれると勉強になるし・・・。」


否定されるかと思ったが、そう言われ私は単純だからすごく嬉しくなった。

「よし!!私の夕食はこれで豪華になるな!!」

「馬鹿・・・。」

神戸は呆れていたが、どこか嬉しそうに感じたのは私の思い上がりだろうか。


かくして、私は神戸の家に通うことを許されたのである。

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