シンデレラは夢見てる

もう降りちゃいたい

降りたいのよアタシは


高速をぶっ飛べだって?

拘束されて身動きならずに


シートのアタシ

何がしたいってわけ?

どうしたい

どうするの

どうかしてる、よ


あほなアンタと

おバカな私


お似合いな連れ合い

大きなお世話

ぶっ飛ばすゾ


夜明けの飲み屋街に

取り残されて

夜更けに独り

終電逃して夜明かしも

ネットカフェで退屈しのぎ

飽きたら寝るだけ

つまらないけど、ね


それでもいいと思ってた


やりたいことなど

何にもないし

付き合ってた奴は

カードを借り倒して夜逃げした

もちろんアタシのよ

だからバカなのさ、だって?

あんたぁ


どっちのことよ

どっちもだって?本気なの

それでやけ酒飲み倒し

二日酔いで頭がずきずき、ここにいる

やっぱりそうなんだ

みんなそう言うよ

グスン…


って、しおらしいこと言うって

思ったかぁ!

誰のせいだと思ってる

俺のせいじゃないって?

当り前よぉ

馬鹿にすんな

アタシを何だと思ってる


「おバカさん」


もう、もう!許さないぞぉ

アタシをどこかに連れて行け

そのボロ車で連れて行け

(ラブ)ホテルじゃないぞ

前もって言っとくけど

アタシを何だと思ってる


ああ!みなまで言うな分かってる

アタシはアタシは

ホントのおバカさん、だヨ

いい年こいて

つまらん中小企業でOLやって

挙句の果てにこのざまさ

ザマーミロ


何なんだようチクショーめ

おかげでこんな奴の車で二人きり

寒い夜中のドライブさ

何処まで行くの

何処まで言った


そうだった降りたいの

もう降りたい下ろしてよ

もうイヤなんだよう

たくさんだよぉ

シートの中で膝を丸めて泣きじゃくる


呆れているのか

やばい奴と恐れをなしたか

やっぱりバカだと隣のあいつ

黙ったきりでハンドル握る


気が付いたら高速に乗って

ハイウエイをまっしぐら

夜明けまで一言も語らない

二人の隙間


当然だね

”疫病神”だよこんな女

泣き腫らしたら落ち着いた


車はいつしか「道の駅」

夜明けの光が車中を照らす

もう朝なんだ

寒いけどスッキリしてる

夜明けの空気が清々しい

だから

シートの私はぎごちない


アイツがいない

戻ってきたら缶コーヒー

二人で飲み干す暖かさ

お腹が暖まる

気持ちが温まる


飲んだら帰るぞ

帰ってどうする?俺は一度帰って

家で寝る

寝るってどうなるの

あ、やっぱりバカだなアタシって

そんな顔してるョ


こんなアタシと付き合って

夜っぴて徹夜でドライブ

くたびれちゃったのね

ごめんなさい

反省してます


駅前まで連れて行ってもらえて

お昼前

交差点前で降ろされた

スクランブルな交差点


このままこのまま

それでいいの

お礼の問題じゃない

気持ちの問題じゃない

何のために付き合ってくれた

こんな私と


俺にだって都合はある

見透かすようにあいつは言った

やっぱりそうなのね

夢が醒めちゃった


やっぱり朝なのね

勤めはどうしよう


会社勤めなんだろ?今日は休んだら

アナタこそどうなの

連絡済みだ心配するなよ

アナタは微笑んだ

わたしも微笑んだ


「さよなら」


「ああ、またな」


やめてよ、寂しくなるじゃない

そんな”別れ”言葉じゃ

辛くなる


アナタは言った

また会えるだろ

どうせ酔いどれて

またあの辺りを徘徊してるクセに


今度は飲もうぜ

二人一緒で

ええっとアタシは口ごもる

だったらここに連絡してと携帯を…


よせよ、そういうのを野暮というんだよ

イイじゃないアタシは野暮な女です

お終いじゃイヤ

やっぱりイヤなんです


じゃあ今夜あそこで待ってろよ

迎えに行ってやる


ええ、ええ?そうなの

頬が染まってくる

年甲斐もなく


信号が変わる交差点

行けよ俺たち邪魔になるから

彼はさっさと行ってしまった

道の向こう交差点


まだ夢から覚めていない

アタシはそう思った

遅めの軽い朝食を

カフェで取りながらの現実

そしてこれからの現実


わたしが信じれば”事実”になる

それは信じたいの


バカでも信じる希望は捨てないわ

シンデレラを信じちゃいないという

はもう言わない


いいでしょ

これがアタシの人生よ





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