第9話 他人の馴れ初めはやっぱり気になる
さすがの美波も疲れ切ったのか、そのままスヤスヤと寝息を立て始めた。
「早紀さん、びっくりされたでしょう」
美波の夫、辰巳はほほを赤らめて翔に言った。出産の渦中では夢中だったのだろう。
「いえ、そんな……たしかに最初は少し……でもすごく参考になりました。本当にありがとうございました」翔はお礼と共に言った。
「よかったら少しお話ししませんか」
「ぜひ。こちらこそお願いします」
「早紀さん、私と妻の美波はインターネットを通じて知り合ったんです」
「そうだったんですか。実は私と主人もインターネットで知り合いました」意外な同じ出会いに、翔は話をしようと思った。
「本当ですか? 偶然とは思えないですね。さしつかえなければお話しいただけないでしょうか」
「ちょっと恥ずかしいんですけど……実は私達夫婦はセックスレスなんです」
「本当ですか! 私達も同じです。いや~これはもう神様が私達を引き合わせてくれたとしか思えないですね」
「でもあんなに仲良さそうでしたのに、エッチしてないんですか?」翔は不思議そうに尋ねた。
「仲はとても良いんですよ。でもセックスしないでペッティングとか、ひとりエッチの見せっこばかりしています」
「私達も同じような感じです」
「妻が目を覚まさないうちに、場所を変えてナイショ話しません?」
「いいですね。ぜひ」翔は少しワクワクしていた。
辰巳と翔はベランダに出て話を続けた。
「私と美波はかなり若い頃から普通のセックスは出来ないんです。だからインターネットでそういうサイトの掲示板で美波と知り合ったんです」
「そうでしたか。私達夫婦もやっぱり普通のセックスが出来なくて、主人がそういうサイトを運営していたんです。だから私達も一人エッチの見せっこばかりしてました」
翔は自分の事を上手く早紀の立場で話せた。すっかり入れ替わった状況に慣れて、順応しているようだ。
「あるんですね。こんな偶然」翔は言った。
「今度もっとゆっくりじっくりお話ししたいです。ぜひ旦那さんも一緒に」
「はい」
「今日はそろそろ戻りましょう。美波の目が覚めて、私達がこんな話してるの知られたら怒られそうです」
「アツアツですね。うらやましいです」
(これはカトミナに口説かれたなんて絶対言えないな。墓場まで持って行かなきゃ)
その後、早紀が迎えに来て、翔は興奮さめやらぬまま早紀の運転するリーフに乗り、帰路についた。
「早紀、今日は本当にすごい体験をしたよ。聞いてくれるかな?」
「ぜひ聞きたい。どうだった?」
「まず結論から言うと無事生まれた。女の子だった。上の子も女の子って言ってたから、2人姉妹だね」
「ふうん」
「それでさ、出産が始まる前に、カトミナと一緒に本物の出産のDVDを観たんだけど、これが壮絶で」
「本当?」
「へー。やっぱり私も見たかったな。いいな~翔」
「スマホで動画撮ったからさ、後で一緒に観てみようよ」
「本当? うわー楽しみ……」
「元に戻ってもカトミナとは仲良くするといいよ。次も彼女に取り上げてもらおうよ」
「いいね。すごくいい人そうだしね」
(あ……しまった……そういえばカトミナは早紀に気があるんだった。でもそんな事言えないしなあ……黙ってて後でバレるのも怖い。どうしよっか)
翔は途方にくれていた。美波は本当に困ったちゃんである。自分を口説こうとしたり、あんなに愛してくれている辰巳をじゃけんにしたり。
自宅に戻って、翔と早紀は早速美波の出産シーンの動画を鑑賞した。
「これがアクティブバース。すごいでしょ」
「本当にすごいね」
「でしょ。カトミナぐらい熱心な助産師、そうそういないんじゃないかな。最近PSASの症状が軽くなったのも、彼女に瞑想とかアロマを紹介してもらったのが大きいんだ」
「そうだね」
「もう感動しちゃって。絶対下から産みたい」
そしてクライマックスの胎児娩出だ。
「うわーすごいね。こんな大きな声で叫んでる」
「でしょ。この後で彼女も言ってたよ。すごくスッキリしたって」
「あ~やっぱり自分で産みたかったな。翔、すぐ二人目作ろうね。約束だよ!」
「もちろんさ。何なら今すぐにでも」
「バーカ。今妊娠中なのに作れっこないじゃん」
「あ……」
翔と早紀は、かなり大きくなった翔のおなかを気にしながらも、いつも以上に激しく燃える夜を過ごしたのだった。
◇◇◇◇◇◇
読んでいただきありがとうございました。
もし、カトミナ二人目出産おめでとう! と思っていただけましたら、ぜひ★評価や♡評価とフォローをお願いします。
次から第8章に入ります。第1話では、無事復帰したカトミナと翔が来るべき出産のためのバースプランを組みます。お楽しみに!
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