第5章 子作りも大変

第1話 子供が欲しいけど……

「早紀、子供欲しいよね」

「そうだね」


 しかし、翔と早紀はこれだけ仲が良いのに、まだ一度もセックスをした事がなかった。子供を作るにはセックスしなければならない。


「ちょっとためしてみよう」

 翔は何度も早紀にキスをした。


「愛してるよ。早紀」

「私も」


 二人は一つになった。


「好き……」

 早紀は翔の首に腕を回し、何度もキスをする。

「早紀、身体は大丈夫?」

「うん。まだ全然大丈夫」


「じゃあ続けよっか」

「そうだね」


 ところがだ。翔はいつまでたっても一向にイクことができない。


 翔も早紀も、セックスがうまくいかないとは思っていなかった。


 その後も翔と早紀は、何度かセックスにチャレンジしてみたが、うまくいかなかった。


 食生活も変えてみた。精力がつくと言われているものを食べたり。


 ある日、早紀はやはり精力をつける料理を探していた広瀬楓と出会う事となった。


 楓も早紀と同様に、精力のつく食べ物を相手に食べさせるという、食生活の改善で夜の生活を変えようと考えていたのである。


 似た境遇の二人は、すぐに意気投合した。


「ねぇ早紀さん、どんな食べ物を食べさせたら精力つくのかなあ」

「よく言われてるのがスッポンだけど、ちょっと料理しにくいよね」

「確かにね。牡蠣かきとかは?」


「いいんじゃない。調理し易いしね」

「こんなのどうかな? スパゲッティボンゴレってあるじゃん、あのアサリの代わりに牡蠣を入れるの」


「ナイスアイデア! あとはニンニクをマシマシにすればすごいの出来そう」

「それでいこう!」


「あとは食前にピスタチオと、オクラ入りのとろろを出せば完璧ね!」

「私達天才だよね!」


 早紀は、その日の晩ご飯で、早速「牡蠣入りボンゴレ・ニンニク増し」を作って出した。


「お~いいじゃんこれ。アサリよりも合うんじゃない?」

「でしょでしょ。これからは定期的にこれ食べよ。そしたらきっとセックス出来るようになるよ」

「そうだね。やっぱり子供欲しいし」


 だが、結局それだけでは夜の生活を改善するには至らなかった。


 やはり、重症の遅漏である翔は、早紀の中で達する事が出来ないのだ。


「困ったね。どうしようか?」

「そうだ、見せっこしてかなり高まってから入れればいいんだ」

「それいいかも」


 翔と早紀は、オナニーの見せっこをして、かなり性感が高まってから入れるという方法を試してみた。


 翔と早紀は達する寸前で一つになった。

 ついに、早紀の奥深くに、翔と早紀の希望が放たれたのだ。

 翔と早紀は、ようやくセックスする事が出来、そのかいあって妊娠した。



◇◇◇◇◇◇



「早紀、今日は病院に行く日だよね」

 妊娠が確定すれば、母子手帳をもらいに市役所に行かなければならない。


「ついに自分もお父さんになるのか」翔は喜んでいた。

「分かったらすぐ電話して。お祝いしよう。そしたらケーキ買ってくるから」


 早紀は出掛ける時に普段よりも注意しようと思った。ただでさえ持病で転びやすい身体なのだ。慎重に行動しなければ。


 翔は仕事中も結果が気になって仕方がない。仕事中ずっとスマホを机の上に置いて何度も確認した。


 おかしい。通知も着信も来ない。

 もしかして駄目だったのか。胸騒ぎがした。


「すみませんがお先に失礼します」

 翔は仕事が終わると、すぐに家に帰った。


 自宅の電気はついていた。もう戻っているはずだ。

「ただいま」

「おかえりなさい」


 早紀は平静を保っていたが、その表情には雲がかかっていた。


 なかなか口を開かない早紀に、翔はやさしく尋ねた。

「どうしたの? 何かあった?」


 早紀はやっと話し始めた。

「実はね……明後日から入院する事になったの」

「それって……」


「あとこれ見て」

 翔は早紀から渡された文書を見ると、同意書とあった。

「これにサインして」


「流産した」

「……そうだったんだ」

「心拍が確認出来なかったの」


「つらかったよな。良く話してくれた」

 翔は早紀をぎゅっと抱きしめた。

「明日から仕事休んで付き添うから元気出してよ」


 手術当日になった。翔は早紀が入院している個室に入った。

「おはよう。昨日は眠れた? 体調はどう?」

「大丈夫」


「僕はここで待ってるよ」

「じゃあ、行って来るね」

 早紀は振り返って笑顔を見せた。


 早紀はストレッチャーに乗せられて戻って来た。そしてベッドに移された。


 翔は看護師に聞いてみた。

「あの……手術はどうだったんですか?」

「上手く行きました」


「よかった。有難うございました」

 翔がお礼を伝えると、医師と看護師が退出した。

(こんなに望んでいるのに。色々努力もしてるのに)


 早紀が目を覚ました。

「目覚めたんだ」


「手術なら終わったよ。無事処置出来たって」

 早紀の目から涙が…

「泣きたかったら泣いていいんだよ」


 今回の流産は早紀のせいじゃない。


「今回の事は悲しかった。でも、早紀は妊娠出来る身体なんだという事が分かった。だから、何も心配いらない」

「そうだね」


「きっと、僕たちの赤ちゃんは来てくれるよ」

「当たり前じゃない」

「だったら僕と一緒に待とう。大丈夫だよ」


 しかし、その後も翔と早紀は、見せっことセックスの併用で子作りに励んだものの、なかなか妊娠しなかった。


 そんな中で、定期的に診てもらっていたPSASイクイク病の権威、鷺沼医師から今後の妊娠がかなり厳しい道である事を聞いた。


「早紀、君さえよければ鷺沼医師の所に一緒に行って、僕も話を聞きたい」

「本当? 一緒に来てくれるの」

「うん」


 翔はなるべく早紀の病状を知っておきたかったのだ。


「私の身体で妊娠する事に問題はないのでしょうか?」

 早紀は鷺沼医師に尋ねた。


「PSAS自体が妊娠を困難にするという症状はありません。ただ……」

「何でしょうか」

「PSASの症状や、その捉え方にはかなり個人差があります。早紀さんの場合、PSASの症状がかなりストレスになっているようです」

 やはり、早紀は感じやすい身体をかなり恥ずかしいと思っていたのだ。


「そのため、身体が衰弱しています。妊娠しにくいのはおそらくそれが原因かと思われます」


 鷺沼医師は更に続けた。

「それから……仮に妊娠出来たとしても、出産するのが難しいでしょう」


「そうなのですか?」

 早紀は、信じられないという表情で鷺沼医師を見つめながら言った。


「特に普通分娩は難しいですから、帝王切開になる可能性が高い事は知っておいてください」


 翔と早紀は、想像よりも厳しい現状に直面していた。


「早紀、物は考えようだ。鷺沼医師も決して妊娠や出産が無理とは言ってないじゃないか。また一緒に頑張ろう」


「そうだね。絶対諦めたくない」

「大丈夫。僕は、いつまででも付き合うよ」


 翔と早紀は、こんな時だからこそお互いに結束を強めようと考えていた。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第2話は、流産してしまった早紀が、それでも諦めきれずに子作りにチャレンジします。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!

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