第3章 イクイク病発症す

第1話 一番素敵な時間が、一番辛い時間へ……

 早紀は、まだ自分が絶頂を楽しんでいた頃の事をしみじみと思い出していた。


 もう物心ついた頃にはあの感覚を堪能していた。確か3歳か4歳ぐらいの時期である。でも、この頃にはまだ自分でコントロール出来ておらず、一体どうすれば確実に達する事が出来るのか見当も付かなかった。


 オーガズムはアソコへの刺激によって起こる事は間違いないはずであると確信していた。


 ところがだ。意を決してアソコに触ってみても痛いだけでとても気持ち良くなるどころではなかった。


 何度かためしているうち、ようやく快感が得られるようになってきた。

 早紀はとうとう自分の意志でオーガズムを得る事が出来たのである。


 早紀は、オナニーするようになって性欲のコントロールは出来るようになったが、どうしても後ろめたさや罪悪感、何とも言えない恐怖感を拭い去る事が出来なかった。


 それは、もしかしたら病気なのではないか、自分の体がおかしくなったのではないか。更に無知も甚だしい事であるが、なんとオナニーで「赤ちゃんが出来ちゃう」と勘違いしていたのである。


 しばらくはそんな状態で過ごしていたが、元々読書好きだった早紀は、性に関する知識についても書籍を通じて知る事が出来、一安心。もうこれで何の心配もなくオナニー出来る。


 少ししてだいぶオナニーに慣れてくると、休み時間や帰宅後、夜寝る前だけだと物足りなくなってきた。通学中の電車の中や、退屈な授業中にどうしてもがまんできなくなるという事があったのである。


 かといってそんな所で下半身に手を伸ばす訳にはいかない。すごく恥ずかしい。そこで、早紀はなんとか周りにバレずにオーガズムを味わう事が出来ないかどうか考えてみた。


 そうだ、手を使わなければいいんだ。


 早紀は脚を閉じたまま、ほんの少しだけ締め付けるような、より自然な動きでもイク事が出来るようになった。


 こうして、周りにバレずに達する事が出来るように。


 まさか、この技術が早紀の人生を左右する程の大切な技術になるとは、この時には考えもしなかった。



◇◇◇◇◇◇



 早紀が中学生の頃、クラスの男女間で交換日記をするのが流行った事があった。きっかけは加藤雅之と河合奈津美が先陣を切って始めた事である。

 雅之はテニス部で、モデルみたいな顔立ちのモテ男子。奈津美は吹奏楽部のおしとやか美人である。


 2人共クラスの人気者で、いつも注目されている存在だった。とてもお似合いである。


 早紀は奈津美には密かにライバル意識を持っていた。なぜなら早紀の初恋の人である内藤英人と仲の良い女子だったからである。そして、英人が彼女にかなりの感情を有している事が明らかだった。


 まあ、恋という程ではないだろうけど、早紀よりもお気に入りではないかと思われる事があった。


 それは休み時間の過ごし方。この頃、英人は奈津美の斜め前の席に座っていたので、ほとんど彼女とばかり話していた。


 雅之と奈津美が交換日記をしている事が周りに知られた時、最初はみんなと一緒にからかっていた英人は、その後どことなく元気がなくなっていた。明らかにショックだったようだ。


 そこで早紀はチャンスと思い、すかさずアプローチ。

「内藤も交換日記したくない?」

「したいな~」


「私してあげよっか」

「えー、深山とかよ。まあいっか」

 早紀の実家の地域では、男女とも苗字で呼び捨てで呼ぶのが通常だった。


「ひっどーい。嫌ならいいけど」

「嫌じゃないよ。ぜひお願い」

「しょうがないなあ」


 こんな感じで早紀と英人は交換日記をする事になった。

 英人は意外とキザな所があった。意味も分からずに日記にアイラブユーなんて書いて来るのだ。カワイイ。早紀も思わず同じ言葉で返す。


 あと嬉しかったのが、早紀と交換日記を始めてから、英人は小椋千尋おぐらちひろの事を虐めなくなったのである。


 千尋は少し知恵遅れの所があって、いじめられっ子だった。特に奈津美のいじめは陰湿だった。決して自分では手を下さない。自分に気があったり、仲の良い男子に虐めさせるのである。英人もその中の一人だった。自分は高見の見物をして楽しんでいるみたいな感じだった。


 早紀はというと、虐めが大嫌いだったのでいつも千尋の事をかばっていた。でも英人はそれでも虐めをやめなかったのである。

 ところが、早紀と交換日記を始めてからピタリと虐めなくなった。


「やっぱさ、男のくせに女の子を虐めるなんてサイテーだよな。俺やっと分かったんだ。ありがとう早紀」

「そうだよ。今の英人、前よりずっといいよ」

 この頃から、早紀は英人に恋愛感情を持つようになっていた。



◇◇◇◇◇◇



 さて、こういった幸せな日々はある日突然終わりを告げる事になる。ついに早紀に過酷な運命が牙を剥いたのだ。PSASイクイク病という病のきっかけとなった交通事故に遭遇するのである。


 早紀は中学時代は卓球部に所属していた。部活が終わって自宅に向かう最中に、赤信号を無視した車と接触し、身体が中を舞った。


 早紀は今までの思い出が頭の中を駆け巡った。これが走馬灯っていうのか。もしかしたらこれで自分は死ぬのかな。そんな事を考えながら次第に気が遠くなり、早紀の視界が真っ暗になった。


 気が付いた時には、病院のベッドで横になっていた。


 かなり激しく吹っ飛ばされたにもかかわらず、打ち所が悪くはなかったのだろうか。早紀は、外傷については多少のかすり傷程度で済んだ。


 しかし、この事故は早紀の身体にとんでもない変化をもたらした。この変化は初めから起こっていた訳ではない。徐々に、真綿で首を絞めるかのように少しづつ、早紀の身体を蝕んでいった。


 最初に現れた変化は、脚がムズムズして気になり、夜あまり眠れなくなってしまった事だった。


 インターネットで検索してみると、「むずむず脚症候群」と呼ばれる病気らしい事が分かった。


 さほど深刻な病気ではない事から、あまり気にも留めず、病院へ行こうとも思わなかった。


 次に訪れた変化は、もともと身体が敏感である事は自覚していたが、それがますます加速して刺激に敏感になってきた事だ。


 自転車の振動でムラムラしてきたり。自転車に乗って、近くのスーパーまで買い物に出た時に体がビクビクッと反応して、なんともいえない快感が早紀を襲った。


 その時は「最近ひとりエッチしてなかったからかな」と考えていたが、これで終わりではなかった。


 次の日も自転車で学校に向かう時も、自転車の振動に体が反応し、何度も絶頂感を感じた。学校に着いた時にはかなり体力を消耗していた。これでは授業どころではない。


 オーガズムは授業中であっても襲ってきて、早紀は椅子に座ってただ耐える事しか出来ないのだ。


 更に休み時間になると、友達がふざけてじゃれて来たり、肩を叩かれたりしただけでも達してしまう。


 これはおかしいと思って病院に行っても、「単に性欲が高まっているだけなので、心配はいらない」と言われてしまった。


 その後も症状は治まらなかった。日常生活では様々な振動が生じる。自転車以外でも電車、携帯電話をマナーモードにしている時。地震。こういうちょっとした振動に反応し、オーガズムを得てしまうのだ。


 こんな事誰にも相談出来ない。友達にも、学校の先生にも。ましてや両親に知られる事など絶対に嫌だと思った。


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第2話は、早紀のPSASがもたらす予想外の悪影響が明らかに。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに!

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