沈黙に積雪 ~河北の劉秀~
四谷軒
01 プロローグ 漢委奴国王(かんわのなのこくおう)
後漢。
建武中元二年正月。
洛陽。
はらりはらりと降り積もる雪の中。
その行列は押し黙って行進していた。
向かう先は皇宮。
謁見する相手は光武帝、後漢の初代皇帝である。
「…………」
貫頭衣を着た、行列の先頭の男は皇宮の門の前に立ち、一礼する。
深く、深く頭を下げたのち。
おもむろに直立し、言った。
「……これなるは、
皇宮の門が開く。
大夫はさらに一礼して門内に入り、大夫に付き従う者らも、あとにつづいた。
*
光武帝劉秀は、遥か東の果て、倭の奴国から来た、大夫ら外交使節団を歓迎した。
そして大夫を饗応の場へと案内する途中、ふと外に見える雪を眺め、大夫に問うた。
「大夫どの」
「何でございましょう」
「この都、洛陽に来る途次、河北を通ったか」
「さようにございます」
劉秀はすっかり白くなった
「河北はどうであった? かように雪が降っていたか?」
大夫は何事かと思ったが、正直に答えることにした。
「奉答します。陛下のおっしゃるとおり、雪が降り、積もっておりました」
「そうか」
劉秀は北へと目を移す。
河北。
それは彼が、功成ったにもかかわらず、放逐された地であり、しかし彼が大きく飛躍する契機を得た地であった。
「…………」
劉秀が沈黙する間も、積雪は
その時、劉秀は、若き日の河北へと思いを募らせていた。
これは、その若き日の劉秀の、河北における苦闘を描く物語である――
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