第3話 あの日

※シリアスです。


今日も取引先のお歴々とゴルフコースを回る。休日が最適な営業の日なんだよ。

勝たず、負けず。力加減が難しい。雑談と仕事の話と混ぜて場を盛り上げる。楽しくプレーできるようキャディーさんにも声をかける。

8番ホールのティーショットに入ろうとしたところ、土色の顔をした専務が小声で呼びかけてきた。

『奥様が、大変です』

「どうした?」

『たった今警察から電話があり、横断歩道で乗用車にはねられたと。車の左折に巻き込まれたようだとのことです。すぐに救急車で……』

そこから先は覚えていない。

先方に断りを入れ、すぐに病院に向かった。


ICUに妻は横たわっているが窓越しに見るだけ。入室できない。

呼吸器をつけ、点滴を打ち、時々リズムが乱れる電子音がうるさい。


ふと。妻が目を開け、こちらを見た。ような気がした。

微笑んでくれた。ような気がした。

うなずいてくれた。ような気がした。

目を閉じた。

電子音が鳴り続けている。


我を忘れてICUのドアを開け中に入る。

ナースステーションの隣なのに、医師も看護師も来ない。

この事態にも関わらず、誰も来ない


どうして。

妻が何をした。

私が何をした。


永遠の時間が経ったころ医師がやってきて、妻の手首に触れ、一言。そのあと時刻を告げた。


どうして。

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