第27話 時に家庭教師
文化祭が終わり、数日後。
タイオウ伝えに魔王からDMが届いた。
『模試の結果はどうだった?』
『僕は総合三位だったけど、お前は?』
『私は総合一位だ』
んな!? 普段から居残り勉強していた僕よりも高い結果を出しているだと……?
『嘘じゃないだろうな?』
そう言うと、魔王は模試の結果が書かれた紙を写メして送って来る。
『今回は私の勝ちだな、どうせなら何か賭けておけばよかった』
『お前って、普段は勉強どうしてる? 独学?』
『私は家庭教師に教えて頂いている』
家庭教師……薄々聞かされていたけど、やっぱ効果高いんだ。
『私の家庭教師を紹介してやろうか?』
『魔王の施しは受けないって決めてある』
『そうか、それはそうと、次の十二月に開催される模試では賭けないか?』
『僕が勝ったらどうする?』
『アンドロタイトの平和は約束しよう、その代り、私が勝てば』
――十二月二十四日、私に付き合え。
魔王が提示した条件を心の中で天秤に掛け、結果的に魔王との学力勝負を受けることにした。僕が勝てばアンドロタイトに恒久的な平和が訪れるし、仮に魔王が勝っても大した要求じゃない。
でも、僕はこの一件を受けて、中嶋教諭がいる職員室に相談しに行った。
「失礼します!」
「む、佐伯か、どうした?」
すると入り口に付近に居た数学担当の穂山教諭が迎えてくれた。
「中嶋先生にご相談したいことがありまして」
「お前、本当に中嶋先生のこと好きだな」
「滅相もございません!」
なんて言う、くだらないやり取りをしていると中嶋教諭が気付いたみたいだ。
「佐伯、先生に用事があるのか? ならこっちに来なさい」
「失礼します!」
中嶋教諭のデスクに向かうと、肌色の艶めかしいパンストが目についた。
このパンストとも、色々あったよな……と思い出に耽ってる場合じゃない。
「先生、実は自分、模試の結果がある生徒に負けてまして」
「確か佐伯は、総合三位だったな。凄いことだと思うが、それで?」
「それで、自分は負けてしまった生徒が家庭教師を雇っていると聞きまして」
「うん、で?」
「そろそろ受験も近くなって来たことですし、自分も家庭教師を雇ってみたくて」
「それで私に相談に来たと?」
その通り、というと、中嶋教諭は眉尻を垂らし安堵しているかのようだった。
「佐伯はさ、普段からこーいった内容の話を何故してこない? お前、勉強出来るのに、持ち掛けて来る話はすべてアホらしいものだったことに、先生は内心失望していたんだ。今回はその汚名返上ってことでいいんだろうな。よし、わかった。なら先生がとびっきり腕の立つ家庭教師をお前に紹介しよう」
おお!? 試しに物は言ってみるもんだとは、本当だった。
「所で佐伯のご両親にはすでに家庭教師の話はしてあるよな?」
「いえ」
「今すぐご両親に相談しろ、普通はそっちが先だろう? はぁ」
という事で、僕は来週から週に二、三回のペースで家庭教師に来て頂くことになった。キリコが二人きりの時間がますます減るじゃないと嘆いていた。すると事件が起こったんだ。
居残り勉強を終えたあと、家に帰る。
いつものルーティン通りのはずだったのに、我が家の居間にキリコの父親がいた。
「あ、イッサ、お帰りなさい」
「……うむ、久しぶりだなイッサくん。お邪魔させてもらってるよ」
ど、どうしてキリコのお父さんが我が家に?
と、奇妙な状況に動揺を隠しきれないでいると、キリコのお父さんは土下座し始めた。
「イッサくん、折り入って頼みがある」
「やめてください、顔をあげてくださいよおじさん」
「君が家庭教師を雇う話を聞き、俺は思い付いたことがある」
「なんでしょう?」
「その家庭教師は、我が家と君の家で折半しないか?」
折半? 家庭教師を? 考えが混乱していると、母さんが正すように口添えした。
「家庭教師雇うのも馬鹿にならないの。ならここは君部さんの家と、私達の家でそれぞれ月謝を折半して支払う形にしませんかってご相談よ。つまりイッサはキリコちゃんと一緒に家庭教師に見て頂こう、そういうこと」
……、まぁ、いいのでは?
今の所、特に思い当たる問題もないし。
何だったらミサキも一緒に見て貰って、さらに折半すればいいんじゃ?
僕からそう打診すると母さんが、あらそれもいいわね、と暢気な感じでお茶を飲んでいた。
「とにかくおじさんは顔をあげてください、家庭教師の話でしたら僕としては喜んで引き受けさせて貰いますので」
「君はあれから随分と人間が出来てきたようだな、感心感心」
いえ、どちらかと言えばあの時のおじさんがどうかしていただけです。
などとは口が裂けても言えなかった。
家庭教師の話はトントン拍子で決まり、中嶋教諭に相談してから三日目、お目当ての家庭教師とアポイントメントが取れたらしい。先ずは顔合わせしませんかと向こうから打診があったので、放課後、僕の学校の正門でお嬢様学校の制服を着たミサキと落ち合い、キリコの家に向かった。
「ミサキ、キリコの家に着いたから離れてくれ」
「どうして?」
「家庭教師さんとの顔合わせなんだから、印象悪くして断れたらどうするんだ」
「……じゃあ、そうする」
じゃあ、キリコの家のインターホンを鳴らそう。
「はい、イッサ? 玄関空いてるから勝手に上がっていいわよ」
「お邪魔します」
玄関空いているから勝手に上がっていいとは、不用心だな。
玄関を上がってすぐある階段を昇り、二階にあるキリコの私室に向かった。
キリコの部屋の隅には転移用のマーカーがあるから、触れないよう注意しよう。
ミサキと一緒に鞄を下ろし、待っているとキリコがお茶を持ってやってきた。
「はぁー、忙しい忙しい、家庭教師迎え入れるのになんでここまで動かなきゃいけないの?」
「そりゃ、相手はこれから僕達に勉強を教えてくれる人だもの、誠意を尽くそう」
「ならデュランも手伝って」
「いいけど、僕の名前は佐伯イッサだって何回言えば直るんだよ」
キリコの手伝いをして、人数分のお茶とお茶請けを用意し終えると。
――ピンポーンと、キリコの家のインターホンが鳴り、家庭教師の方が来たみたいだ。
「来たみたいね、緊張するわ」
僕もキリコと同じ心境だ、少し緊張する。
手を少し発汗させていると、隣に居たミサキがその手を取った。
「私、緊張に弱くて」
確かにミサキは前世の時からそんな感じだった。
僕達が三者三様に緊張していると、階段をトントントンと上がって来る足音がして。
――コンコンコン、とキリコの部屋の扉を三度ノックされる。
「空いてますよ、どうぞ」
キリコの声音はいつになく大人しいものだった。
「失礼します」
扉を開け、部屋に入って来た家庭教師は凛々しい男性だった。
男装した麗人にも見えるけど、そこはまだ聞かないでおこう。
「私、この度家庭教師としてご紹介に預かりました白銀トキヤと申します。先ずは三人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「あ、はい、私の名前は君部キリコと申します。初めまして」
「僕の名前は佐伯イッサと申します。同じく初めまして」
「私は藤堂ミサキと言います、よろしくお願いします」
三人とも無難に自己紹介を終えると、トキヤさんは口元に手を当てて思案した。
「おかしいな……もう一度名前聞いてもいい?」
そう言われ、僕達は頭に「?」を浮かべている。
今の自己紹介の何がいけなかったんだ?
「俺はここに、大英雄デュランが居るって聞かされていたんだけど?」
え? じゃあもしかすると。
「貴方もしかしてオズワルド?」
短気なキリコが僕よりも早くそう尋ねると、彼は失笑し、首を横に振っていた。
「ブブー、違います。今日は俺の正体を探り当てるゲームでもしようか、親睦を深める一環として。とりあえず三人とも、座ろう?」
僕らの前世を知っていて、かつまだ見つかってないオズワルドでもない。
そうすると僕らには心当たりがなかった。
前世の仲間は僕を含め六人で、五人は再会している。
が、ジーニーは今家にいない。
アンドロタイトの世界で別れて以降、彼女は帰って来てないんだ。
「さぁ、みんな、前世の記憶を振り絞って考えよう。ヒントは俺の苗字だ」
「あの、その前に質問よろしいですか?」
「なんだい佐伯イッサくん」
「僕達はこれから貴方に勉強を教わる予定ですが、学力レベルはどのぐらいなんでしょうか?」
「学力に関しては問題ないよ、俺は一流大学をストレートで卒業後、家庭教師しているちょっと変わった人ねって近所では有名な凄腕の家庭教師だ。ただ、それは俺の素性を知ればきっと理解してくれると思う」
うーん、この。
僕としては勉強を教えてくれるのなら、前世の因果なんてどうでも宜しいのだが?
「ちょっと試しに、教えて欲しい所があるのですが、早速いいですか?」
だから、僕はこの人を師事すべきか判断するために、今ぶつかっている難問を提示したんだ。
「どれどれ、ああこの問題はね――」
トキヤさんはその難問の要点を一瞬で理解し、水が上から落ちるようにすらすらと解説し始めた。なるほど、学力レベルに関しては期待してよさそうだ。じゃあなおさら前世のことなんかどうだっていい。
「で、俺の正体はわかった?」
「別にいいじゃないですか、前世のことなんか」
「絶望させるなよ佐伯くん、俺が君達の家庭教師を引き受けたメリットを考えてくれよ」
「じゃあ単刀直入にお聞きしますが、誰なんですか?」
「……魔王、だよ。ほら、君達が妹を倒す前に色々と苦戦させられた元祖魔王」
……あー、あいつか。
って、それマジ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます