第9話 時に浮気騒動
魔王に半ば脅迫され、一緒にアロンダイトに向かい。
前世の時、魔王討伐に使った呪われた剣を回収した。その時、魔王はここら辺では割と凶悪なモンスターに人質として一瞬捕らわれたが、モンスターは俺の手によって瞬殺され、魔王は事なき事を得たのだ。
「ちなみに、どうやら今のが魔王軍の指揮官だったみたいだぞ?」
「嘘だろ? かなり小物だったな」
おまけに今倒した相手は魔王軍の襲撃を指揮していた奴だったらしい。
となると、今後はおいそれとあの街が襲われることもなくなるのかな?
渓谷の砂利を踏みしめながら、そんなことを考えていると魔王の視線を感じる。
「何だよ」
「その剣はどうするんだ? もし扱いに困っているのなら私に寄越せ」
「確かにこの剣は厄介だ、一般の人が近づいただけで倒れちゃうしな」
かと言って、魔王に託すことも出来ない。
どうしよう、街の中でも体力の高い人に頼んで、賢者の下に届けてもらおうかな。
というか僕にこの剣を託したあの賢者はまだ生きているのか?
どうする、考えあぐねていると――ふにょとした感触が背中に当たった。
これは……魔王のおっぱい!
「どうした?」
「そろそろ日本に帰らないか?」
「いいけど、この剣を処理するのが先だ」
「私に任せてくれれば、誰の目にもつかない所に封印してやる」
……くそ。
魔王のおっぱいの感触が僕の思考を狂わしている!
どうする、言われるがまま、この剣は魔王に預けるか。
それとも賢者の下にこのまま直行し、封印してもらうか。
後者は無理に近い、僕はここがアロンダイトのどこなのかわかってないんだから。
とにもかくにも魔王のおっぱいがががが。
「どうするデュラン? さっさと決めないと、あらぬ噂が立つぞ」
「あらぬ噂?」
「ああ、私はここに来る前、彼氏とデートしに行くと両親に伝えてある」
「……それで?」
「もしも帰らなかったら、両親もさすがにお前を詮索するだろう」
すると、僕は魔王のご両親に責任を取るよう結婚を強いられるのか?
魔王と結婚? それは――困る!
ただでさえ日本は一夫一妻制なのに、魔王と結婚でもしようものならキリコやミサキに合わせる顔がなくなるよ!
「わかった、この剣はお前に、いや、お前にだけは任せられない!」
「じゃあどうする」
「……」
ぐにゃぁと、景色が歪んでいく。
僕は手を震わせ、呪われたこの剣――グラムを魔王に持たせた。
「最初からそうすればいい」
魔王がグラムを手に取ると、一瞬にして消える。
「どんな手品使ったんだ?」
「秘密だ、それよりも日本に帰ろう」
そう言うと、魔王はまた僕の背中におぶられ、艶めかしいおっぱいの感触を味合わせた。
§ § §
問題は魔王と日本に帰還した際に起こった。
草原のマーカーに触れ、駅ビル広場の一角に顔を出すと。
「デュラン、お帰り」
転生後も執拗に僕のことを佐伯イッサではなく、デュランと呼んでしまうキリコと遭遇した。
「キリコか」
「えぇ、デュランが最も愛したあたし、そちらの方は?」
キリコは隣にいた魔王を露骨にいぶかしがっている。
口調もけんか腰で、どこか棘があるし。
「私ですか?」
一方の魔王は清楚な声色で、私が何か? と、我関せずとさも言いたげだった。
「初めまして、私は白銀ナデシコと言います。今日は佐伯くんが素敵な場所に連れて行ってくれると言ったので、ついて来たのですが、中々に赴き深い場所でしたね、アンドロタイトの世界は」
「イッサ、部外者をアンドロタイトに連れて行ったの?」
キリコは怒っているみたいだ。
魔王は手首にはめていた女性用の腕時計を気に掛ける素振りを取り。
「じゃあ佐伯くん、私はこの後で用事があるからこの辺で」
立ち去ろうとした魔王に、僕は宣言しておきたかった。
魔王は向こうの世界で言った、お互いに前世のことは水に流そうと。
「白銀さん、僕はもう二度と君とは会わないつもりだ」
そう言うと、状況をいぶかしがっていたキリコは混乱し。
魔王は、思いつめるように視線を下に落とした。
「私のこと、嫌いになった?」
ちがーう、そうじゃない。
魔王はキリコに正体を隠すようにしているから合わせているけどさぁ。
「また連絡するね」
「あ、おい」
と引き留めても、魔王は駅の改札口を抜けて人混みの中に消えて行った。
「随分と綺麗な人だったわね」
「そうだな」
「いつになく淡泊な返事、あたしが聞きたいのは、浮気したのかってこと」
「してないよ、彼女は……昨日の模試でちょっと世話になったから」
「ふーん、でもそんな理由であたし達の聖地に部外者を連れて行く?」
白銀さんの正体が魔王だと教えないのは、みんなのことを思ってだ。
僕の仲間は軒並み魔王の城で敗れるように亡くなった。
僕はみんなの犠牲を押して、一人魔王と対峙し、グラムの力を全開放して倒した。
結論として、魔王に恨みがあるのは僕だけじゃないってことだ。白銀さんは単なる白銀さん、彼女は模試で偶然意気投合した勉強マニアということにしておいた方が平和だと思える。
それを説明、あるいは弁解するために、僕はキリコの手を取った。
「何よデュラン」
「僕の名前は佐伯イッサ、僕の部屋に来ないか?」
「えぇ、そうさせてもらう」
キリコと一緒に家に帰ると、誰もいなかった。
母さんたちは買い物にでも行ったのかな?
二階の居間に行っても、テレビの電源は付いてない。
「小母さん達いないのね、じゃあ大丈夫か」
「何が?」
母さん達が不在していることを知ると、キリコは上着を脱ぎ始める。
白い下地にブルーの英字が入ったブラを見せると、彼女は僕に迫るようキスした。
最近、散々な目に遭うことが多かったが、その日はキリコも機嫌直してくれたし、まぁまぁいい日だと思える。
誤解しないで欲しいのは、大事なのはあくまで彼女達であって。
前世の時に、相打つ形で人生を終始した魔王じゃないってことだ。
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