時に異世界へ ~異世界で大英雄となった僕は現代に転生して前世の恋人達とハーレム物語~
サカイヌツク
第一部 時に異世界転移した僕は。
第1話 時に恩寵
世界は僕と、僕のパーティー達によって救われた。
僕は仲間と共にエンペラー級と呼ばれる太古の魔王と闘い抜いた。
しかし結果として、僕達は魔王と相打ちする最悪な方法を選択せざる得なかった。
これは魔王を打破し、世界を救い、全てが終わったあとの物語。
死んだ心地はどうだって? 案外悪くないね。
それでも僕は悲しくもあるよ。
「聞いて下さいデュラン、それからデュランの仲間達」
死んだあと、僕達は一人の女神様と雲海の上で対峙していた。
女神は薄手の白いローブ姿で、慈母性あふれるおだやかな外見をしている。
「今回の貴方達の働き、見事でしたよ。その功績と、人々の祈りを受け、貴方達には新たな人生と、それぞれ恩恵を授けることにしました。どのような恩恵に授かりたいかこの場で仰ってください」
「恩恵をくださるのですか? なら俺は転生しても強いままでいたいです」
弟のローグは女神の打診に食いつき、授かる恩恵の希望を口にしている。
弟に釣られてなのか、他のメンバーもそれぞれの希望を女神に申し出ていた。
「デュラン、貴方で最後です。恩恵の内容はどういたしますか?」
「僕達の転生先はどこになりますか?」
「チキュウと呼ばれる世界の、ニホンという国になります」
チキュウ? ニホン?
とにかく、元居た世界とは違う所のようで胸を撫でおろす。
「それで、恩恵はどういたしますか?」
「……僕はいいですよ、ただ今後は、ゆっくり暮らせるのならそれで」
僕達は世界を救った。けど、僕はあの世界の在りように、疲れていた。
徹底した封建社会で、ある王族が白と言えば黒も白にしなくちゃいけない。
「貴方はあの世界に辟易としているのですか?」
「正直してますね、だから僕に恩恵を与えたかったら、女神様の意思でお与えください。僕は甘んじてそれを受け入れます。転生先では極力目立たず、ゆっくりと暮らしたく思います」
そう言うと、女神は一つ笑みを零した。
「転生先の世界で、ゆっくり出来るといいですね。ではいずれまた会う日まで」
その台詞と共に女神は僕達を現代日本へと送り出したんだ。
§ § §
剣と魔法と魔物の世界の記憶を持ったまま現代日本に転生した僕は、ここでスローライフを送るべく、あれから十六年、勉強を必死に頑張っていた。反動で視力は弱まり、今では白いフレームの眼鏡を掛けるぐらいになった。
放課後、僕は教室の机に教科書とノートを広げ、さらなる勉強をしようとしていた。窓から野球部の「ソーエイ」などと言った練習の掛け声が聞こえて来て、やる気を分けてもらう。
そんな風に野球部とは違った努力をする僕に、声を掛ける同級生の女子がいた。
「イッサ、また居残り勉強?」
「ああ、勉強は毎日の努力で着実に培われる人間の叡智だから」
「暇ならあたしに付き合ってよ」
「暇じゃないって、今日のノルマはまだ終わってないし」
「じゃあ交渉しようか」
僕には居残り勉強がある。というのに、僕の邪魔立てするよう交渉の舵を切ったのは前世の時、一緒に転生した仲間の一人で、
「居残り勉強は辞めて、あたしとデートしない?」
健康的な肌の色、伸びる四肢はやはり女性らしく股下が長くて綺麗だ。
腰元まで伸びた青毛の精緻な髪の毛からは、オレンジの匂いがして意識を惹かれる。目元はしゃっきりとしててダークブラウンの瞳の視野角は誰よりも広く、目敏い。柳眉の眉毛は彼女の容姿端麗なパーツの一つとして添えられ、耳の形も端整でキリっとしている。
物事をはっきりとしたがる性格は言い換えれば独善的で、強引なんだよな。
「じゃあこうしよう、居残り勉強しながらデートしよう」
「どっちでもいい、イッサの傍にいられるのならさ」
キリコは僕の隣の席に腰を下ろし、隙間を埋めて机同士をくっつける。
「ねぇデュラン」
「その名前で僕を呼ぶのは禁止だったはずだろ、キリコ」
「どっちの名前で呼んでも貴方は貴方だから」
キリコはそう言うと、机に向かってる僕の顎を強引に自分に向けさせる。
首筋から嫌な音がしたんだけど!
けど、彼女は誰もいなくなった夕暮れ時の教室で、雰囲気をつくっていた。
「今日はここでしようか」
加えて彼女は甘い誘惑の言葉を投げかけて来て、僕の太ももに手をおいた。
その時――ガララ! と、誰かが教室の引き戸を勢いよく開ける。
「こぅら! お前達教室で何をやっているんだ!?」
担任の中嶋教諭だった。
中嶋教諭は学校の若手No1を自負する女性で、タイトスカート姿がよく似合っている。
「別に何もやってないですよ、ただあたしはイッサくんと勉強してただけです」
「それならいいけど、お前達はまだ学生なんだから、不純異性交遊はいけないぞ」
「でも、先生も昔は羽目外してたんでしょ?」
「あの話は反面教師の例として曝露したんだから、ちょっとは学びなさい」
そうなのか? 確かに中嶋教諭は素朴な色香を持った大人の女性だ。
僕の知らない間に、キリコは中嶋先生との交友を深めていたみたいだ。
「所で、佐伯」
「何でしょうか?」
佐伯イッサ――これが現代日本で与えられた僕の名前だ。
前世の時の長くて古めかしい名前とは違い、語呂もよくて気に入っている。
「最近、お前が深夜遅くに出掛けているとの報告が上がってるぞ、どこに何しに出かけているんだ? 悩みごとがあるのなら私が聞くぞ」
「……」
「言えないようなことしてるんだな、今度の三者面談は覚悟しておけよ」
「今日はこれで帰ります」
急いで勉強道具を白いリュックに入れ、教室から足早に立ち去ると。
「ちょっと待て君部! お前にはまた違った用事がある」
「えぇ? なんですか先生」
キリコが中嶋教諭に捕まり、必然的に僕はキリコと離れた。
正面玄関で上履きからランニングシューズに履き替え、正門に向かうと同県のお嬢様学校の白を基調とした制服を着た女子生徒が待っていた。
「や、待ってたよデュラン」
「だから、その名前で僕を呼ぶなって」
彼女は小柄で華奢な体格に、顔も手足もビスクドールのように細かい造りで、丈の長いスカートの下には黒いタイツを着ている。日本人離れした紺碧色の双眸と、白い肌、彫りの深い顔立ちに、ブロンドの髪の毛はボーイッシュにまとめられていた。
彼女は正門から出ると同時に、僕の左腕に右手を絡めていた。
「今日は早い方だったね、何かあった?」
「担任に痛い所突かれた、君との夜遊びがさっそくばれちゃってさ」
「ああ、なるほど……」
彼女の名前は藤堂ミサキ――彼女もまた前世の時の仲間の一人だった。
「それじゃあ、もうやめておく?」
「いいや、辞めない」
「デュランのむっつり陰キャ」
「その名前で呼ばないでくれ、僕は佐伯イッサだし、この名前が気に入っているんだ」
彼女に組み付かれたまま市営バスに乗り、駅を目指した。
§ § §
「イッサ、あんた先生からも忠告が言ってるはずでしょ、こんな夜中にどこ行くの」
夜、今夜も自宅から例の場所に向かおうとすると、玄関で母に見つかった。
「友達の家に、借りっぱなしのゲームを返しに行って来る」
「嘘言わないで頂戴」
「本当だって」
中嶋教諭に密告したのは偶然見かけた生徒とかじゃなく、母だったようだ。
マズイな、母さんに見つかった以上、これからは休みの時しか行けないぞ。
今夜は強引に集合場所に向かった。
母さんは帰って来たら説教だとかって息巻いていたけど、しょうがない。
待ち合わせ場所の駅ビル広場に向かうと、今日はいつものメンバーに加えてキリコも居た。
「イッサ! どうして今まで私に黙ってたの?」
キリコは母と同じく怒りで角を生やしたように仁王立ちしている。
ミサキがキリコの隣でその大声に迷惑がるよう、嘆息を吐くと。
「キリコは足手まといだからだってさ」
「ミサキには聞いてないのよね、あたしはデュランに聞いてるの」
露骨にキリコを邪見にして衝突している、そんな二人を仲裁する男子がいた。
「二人とも止せよ、今は口論してる時間が惜しいから、言い争いならSNSでやってくれ」
その男子は前髪を二つに分けて額を覗かせている、一見大人しそうな青年だった。
彼の名前は四ノ宮タイオウと言い、前世の時は僕の弟だった奴だ。
タイオウもまた僕の仲間の一人で、彼と僕、キリコとミサキの四人は偶然にも転生先の日本で再会できていたメンバーだ。他に二人、前世の時の仲間がいるんじゃないかと推測はしている。
「兄さん、早く転移させてくれ、ここだと悪目立ちしかしない」
「わかった、キリコにミサキ、行くぞ」
弟にうながされ、僕はその魔法――転移の魔法を使った。
今まで僕達を取り巻いていた駅ビルの雑踏が、急に静まり返り、大草原をなでる穏やかな風の音に変わると、キリコが移り変わった光景を目にして、懐かしむようにしている。
「……懐かしい、アンドロタイトの景色を見るのも、十何年振り」
アンドロタイトは、僕達が元々いた前世の異世界の名前だ。
転移魔法は、女神が僕に与えた恩恵だった。
弟のローグや、女神に恩恵を申し出た仲間とは違い、僕は自分の恩恵を理解してなくて、最近まで使い方を把握してなかったけど、あることを切っ掛けに発動してしまった。
アンドロタイトの住人に話を聞く限り、この世界でまたエンペラー級の魔王の存在が確認されているらしい。人間はまた魔王の脅威に曝され、追いやられているようだった。
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