第51話 上級生VS1年生④
「……リバウンドぉぉぉ!」
1年生チームのベンチから聞えてくる花車の本気の声。その掛け声に答えるようにコートに立つ
「ナイス! 霞草!」
花車は、喜ぶ。当然だった。――試合が再開してすぐ、彼らの勢いは全く止まる気配がなかった。後半戦最初の
――しかし……。
「……なっ!?」
地面に着地した霞草は、自分の足に何か違和感を覚える。それは、感覚としての痛み。足に毒槍の刺さったようなつんざくような痛みの感覚だった。
――くっ!? これは、まさか……。
刹那、霞草にほんの一瞬だけ隙ができる。――その隙を逃すまいと、敵
「……しまった!」
そして、霞草が反応するよりも前に草野は、宙に浮いたボールをそのまま近くにいた
「……速攻!」
彼は、ボールをキャッチするや否や反対側のコートに向かって思いっきりぶん投げる。
――すると、そのパスコースにとてもベストなタイミングで渋谷が走って来る。
「ナイスパァス!」
彼は、
それは、これまで動く事のなかった上級生チーム側のスコアボードが初めて動き出した瞬間。
――そして、悲劇の始まりだった。
「……ドンマイ! まだまだこっちがリードしてるぞ! いつも通りにな!」
ベンチの花車の応援。その最中、コート上では激しい攻防が起こっていた。
「……キャー! 来た来たァ! 紅崎君よ!」
「……あっ、紅崎くん!」
体育館の端っこでは、ボールを持った紅崎に興奮する女子生徒達。彼女達は、気づくと1か所にわらわらと集まり、声援を送り続けていた。――そんな彼女達の隣で紅崎のプレイを見続ける向日葵の姿があった。彼女は、周りの女子達と違い、下手に騒いだりもせず、静かに頬を紅く染めているのだった。
「……がっ、頑張って…………」
彼女の小さな声を隣で聞いていた同じクラスの金髪と黒肌が特徴的なギャルの友達が呆れた様子で溜息をついた。
「…………んなの、聞こえてるわけないやん」
――だが、向日葵の声援の後、紅崎はボールを持って動き出した。彼は、その場でドリブルを始め、そして目の前の渋谷を抜いた。
「……何!?」
その姿を横で見ていた森田が紅崎のドリブルの速さに驚く。彼は、なんとか足だけを動かしてついて行こうとするがそれでも紅崎のスピードについて行けず、途中で立ち止まってしまう。
――アイツ、
森田は、紅崎のプレイを後ろで見続けた。……紅崎は、ゴールへシュートに行く勢いでゴールの下に立つ黒川と山口の2人の巨体へ向かって行く。
「……撃たすかァ!」
山口の必死のハンズアップ。彼は、全身全霊を込めて紅崎のシュートを止めにかかった。そして、そんな彼の姿を横で見ていた黒川も同じく気合を入れなおした顔でハンズアップをする。
――しかし、そんな彼らの必死のDFを紅崎は華麗にかわす。
「……なんだと!?」
紅崎は、山口と黒川に近づいてきた瞬間に視線とは真逆の方向にパスを出す。彼のプレイに上級生達は、驚きを隠せずにいた。
――なんて野郎だよ!? センスエグ過ぎだろ?
――あんな土壇場でパス何か普通出せるかよ!?
山口と黒川は、宙に浮いたまま固まった。そして、彼らが固まっている間にボールはゴール下で待ち構えていた狩生の元へやって来る。
狩生は、ボールを貰うとすぐに高くジャンプをし、リングに向かってボールを叩きつけた――!
――狩生は、両手で精一杯にリングをぶち壊すくらい強く……力強くねじ込んだ!
そのダンクに体育館は、しばらく沈黙した。
だが、すぐにコートは桃色の歓声で溢れかえった。
「きゃああああああああ!」
女子達の声が体育館とその周りを桜色に染め上げる。
「凄い! 素敵!」
会場は沸いた。それは、勿論狩生のダンクもあるが、多くの人。特に女子達はそれよりも紅崎の華麗なパスに自分の感情を叫ばざるを得なかった。彼女達は、本能的に彼のプレイが如何に凄いかを理解した。
「……」
そして、それはコートに立つ他の上級生達も同じように理解していた。――コートを走る1年生達の後ろ姿を見て、上級生達は5人を……しかもその中の1人をまじまじと見つめた。
そして、草野は小さい声で告げた。
「……まずは、あれか」
――上級生達の攻撃が始まった。ドリブルで一気にコートを駆け抜けた草野は、天河が近づいてくる前に渋谷へパスを出す。渋谷はボールを受け取ると、DFの紅崎と睨み合う。
3秒くらいして渋谷は、呟いた。
「……行くぜ」
すると次の瞬間、紅崎の真後ろにで身長の高い黒川が忍者のように忍足でやって来る。
「……!」
黒川が合図を出すと、渋谷は彼のいる方向へ走り出す。──当然、紅崎も追いかけようとするが、彼のすぐ後ろには黒川がいた。そう、黒川が壁となり紅崎の進行を邪魔したのだ。
「……スクリーン!?」
紅崎が驚いていると次の瞬間、彼らの目の前を草野が通りかかった隙にスクリーンをかけている黒川が向こうから走って来る紅崎に向かって思いっきり激突した。
「……ってぇ!」
彼はつい声を荒げる。しかし、審判小田牧にはこの決定的瞬間は見えていなかった。それどころか、体育館中の全ての人間がその事に気づいていない。
──どういう事だ!? 今、明らかに……。
彼がそう思っていると瞬く間に笛の音が鳴った。
──上級生チームが2ゴール目を取ったのだ。
「なんだと!」
紅崎は、その様子を見て怒りを露わにする。──すると、ベンチから花車の声が聞こえてきた。
「ドンマイ! 落ち着いていこう!」
紅崎は、それを聞いてトボトボと走り出すと今度は隣に天河がドリブルをしながらやって来る。
「……大丈夫だ。このくらいすぐ取り返せば良い」
彼は落ち着いた声音でそう告げると、紅崎よりも先にかけて行った。
紅崎は、そんな甘皮の後ろ姿をジッと眺めながら、表情を少しずつ変え、そして上と下の唇を跳ねるように舌打ちをした。
「……クソッ!」
彼は、走った。自分がさっきやられた分を返すのだと決意して……。
──だが、そんな彼の姿を見て渋谷と草野、黒川は口元をいやらしく吊り上げる。
「……さぁ、
「「おう!」」
草野の掛け声に上級生達は勢いづいていく……。
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