第13話 ヴィッラ・ヨヴィスにて イタリア ナポリ

 ナポリ湾に浮かぶカプリ島は風光明媚で有名である。青の洞窟で有名である。

 私が訪れた日は、あいにくの曇り空。晴れていれば、鮮やか青い海、そして誇るようなヴェスヴィオ山、美しいソレント半島が見ることができるはずだ。

 冬に訪れたためか波が高く、青の洞窟にも入ることができなかった。

 だが、私の一番の目的は青の洞窟ではなかった。ティベリウスである。

 第二代ローマ皇帝ティベリウス・ユリウス・カエサル。名前の響き的には、アウグストゥスの養子になる前のティベリウス・クラウディウス・ネロの方が好きである。

 私が一番好きなローマ皇帝である。スキピオ・アフリカヌスやカエサル、アウグストゥスのように光は放っていない。性的倒錯という真偽は定かではないゴシップがあろうと、惹かれるものはしょうがない。

 ティベリウスについての私の知識は塩野七生さんの『ローマ人の物語』だけである。

 ティベリウスはカプリ島の最北東部に別荘を建てた。今日、ヴィッラ・ヨヴィスと呼ばれている。

 繁華なカプリ地区から細い道を歩いて約30分。ヴィッラ・ヨヴィスにたどり着く。絶壁にたてられた別荘からの眺めは美しい。ナポリ、ナポリ湾、イスキア島、ヴェスヴィオ山、ソレント半島、カプリ島の北側が見渡せる。

 展望台に立ち、その風景を見て、思った。

「ティベリウスが別荘を建てる前はどうかしらないが、この風景はティベリウスだけのものなのだ」

 今は遺跡であり、今後、誰もここに居を構えることはできない。以前もそうだったろう。だとすれば、この風景を自宅から毎日見ることができる特権は、人類においてほぼ ティベリウスだけということにならないか。

 そう思うと、ティベリウス贔屓の私は、少しだけ嬉しい気分になった。 ローマ皇帝の特権とは別に、そんな特権もティベリウスは持っていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る