暴力魔女と硬化スライム

山長油炭

第1話 はじまり

 あるところに魔女がいました。

 魔女は長い髪がとても美しく、顔立ちも整っていて、一目見ただけで虜になってしまう程に綺麗でした。

 魔女は村近くにある森の奥に一人で暮らしていました。

 村人達は魔女を尊敬していました。そして、それと同じくらい恐れていました。

 魔女は村人達が困っている時に助けてあげます。そして、村人達が幸せな時にはイタズラをします。

 村人達は魔女のことが好きでしたが、魔女は村人達のことが嫌いでした。

 何故なら、村人達は困った時にだけ魔女を頼って、それ以外の村の祭りなどには誘わなかったからです。つまり自分達の都合の良い時だけ力を借りたのです。

 魔女はいつも一人でした。

 魔女は友達をつくろうとしましたが、長い間一人で生活していたので、人との接し方がわかりませんでした。

 魔女と仲良くなる人はいましたが、魔女の家に来るのは最初の数回だけで、誰もが次第に来なくなりました。

 本当に村人達が好きなのは魔女ではなく、魔女の「力」でした。どんなに容姿が美しくても、決して魔女のことが好きというわけではなかったのです。

 魔女はいつも一人でした。


 そんなある日、森にスライムが出ました。

 魔女はいつもの様に村人達が頼りに来るのを待っていました。しかし、いつまで経っても村人達は来ませんでした。

 魔女は遂に見捨てられたと思い、とても不安になりました。

 魔女は村人達へイタズラをするために村へ向かいました。

 すると、家は残っているのに、人の姿が見当たりません。その代わり、地面を跳ねるように蠢く不定形なにび色の物体が辺り一面に点在していました。

 魔女はすぐに分かりました。村人達は魔女に助けを求める間もなく、この粘度は高いが案外素早く動く物体に襲われたのです。

 魔女は本当に一人になりました。

 魔女は寂しく家に帰ることにしました。すると魔女の家の扉が少し空いていました。家を出る時に鍵を閉め忘れていたのです。

 おそるおそる扉を開けてみると、中には大人の男の人が一人、こちらを向いて立っていました。

 魔女は嬉しくなって思わず抱きつきそうになりましたが、寸でのところで止まりました。男の人の様子がおかしかったからです。

 魔女は男の人の正面に立って一歩下がると、思い切り勢い良く男の人の顔面を殴りました。

 男の人は声もあげず、その場で仰向けに倒れました。

 男の人の輪郭がぼやけてきたかと思うと、表面が泡立ち、塊が中心へと集まると、あの村人達を襲い擬態も出来る物体になりました。

「あなたはいくら殴っても死なないのね」

 実に数年振りに魔女がしゃべった瞬間でした。

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