第6話モブという他人

高卒スキルっていうの? それを手にした俺は友人Aと違ってすぐに就職した。正社員だ。

と言っても、俺を雇ってくれたのはすごく身近だった。小学校の用務員。俺は再び宿直室の番人となった。


家にはもう全く帰らなかった。本当に少ない持ち物は友人Aの家と貰い物のスポーツバッグに収まったし、家には俺の居場所はなかったから。


学校にはまだ何人か懐かしい先生もいたりしたけど、大半が入れ替わってた。同じ場所だけど人が違う。すごく不思議な感じだった。

あんなに騒いでいた教室が別の教室みたいだった。一緒に騒いでいた同級生たちがいないから、そう感じた。

俺たち、卒業したんだなぁ。

そう、思えた。


何年か後には教師として戻ってきた奴もいたけど、どうだった? 帰ってきた学び舎には、子どもの頃の俺たちが混ざってはしゃいでたか?

そんなことはないよな。

俺たちは卒業して大人になった。あの場所には小さい俺たちも、あの先生も、もういない。


ただ、校舎の裏庭にある切り株だけは変わらずそこにあった。


「やっと帰ってきたか」


子どもの俺を見守り続けた七不思議が、大人になった俺を迎えてくれた。


「ただいま」


俺の居場所はそこにあった。七不思議のお膝元に建てられた学び舎。桜の花びらが舞う、小学校。

昔、俺がしてもらったように、今度は俺が守るんだ。そう思いながら、俺は門をくぐった。




学校の人たちはいい人たちだった。もちろん生意気な子どもたちもな。

仕事をする傍らで一緒にはしゃいだり、世間話をして盛り上がるのは嫌いじゃなかった。

でも、どっかで壁、ってほどでもないか。ラインがあるんだよな。一線を引く。まさにそれ。

線を挟んだ内側と外側。

さすがに桜ヶ原の外と内とまでは言わないけど、やっぱり全部を許せるのと他人サマは違ったんだよな。

俺にとって内側にいたのは同級生たち。あと、あの先生と助産師さん。他はぜーんぶ外側。

特に遠くにいたのは身内のはずの父さん。誰よりも、何よりも離れていたかった。


父さんとは連絡も一切取らなかった。成人するまでは一応連絡先は残したけど、一度もこなかった。もちろん、俺はそれに安堵した。


何度も繰り返すと思うけどさ。

別に他人が嫌いってことじゃないんだよ。

なんにも知らないではい、こいつ嫌い。なーんて言うのはおかしいだろ。後で嫌いになるかもしれないけど、一言は他人の言い分も聞いた方がいいじゃねぇの?

あ、悪い。一言も聞きたくないって奴も中にはいるよな。そうだよな。向こうに聞く気がないなら何言われても流したいよな。悪い悪い。

ま、全員が全員良い奴ってわけじゃないらしい。


俺の場合はな。ほとんど良い人たちだった。その一言に尽きる。

俺の出自に始まって子ども時代のことを話すとさ、みんな引くんだ。そりゃそうだよな。

でも中にはそれでも付き合おうとする人もいてくれる。一線引いてでも、な。その人たちは大抵良い人たちだよ。

で、その中でも更に距離を詰めてこようとする好き者がいる。おまえたち同級生以外で、だよ。

はっきり言ってかなり変り者だよな。あ、そういうのを変人って言うのか。良い意味でだぜ?

俺の方もそれなりの付き合いはするし、なにより、俺はもう大人だからな。父さんみたいな人にはなりたくない。ちゃんと他人を受け入れて生きていきたい。




そう、思ってたんだ。




俺の周りの人たちは、みんな良い人たちだった。

間違ってないさ。過去形で言うよ。これ、どういうことか解るか?







みんな、いつの間にかいなくなっちまったんだ。




俺から離れていったとかじゃねえんだよ。関係も良かった。喧嘩もしてない。

でも、いつの間にか忽然と姿を消していくんだ。みんな、いなくなるんだ。


行方不明者多数発生。

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