第4話幽霊ぼっち

昨日の朝、草むらの中で何かが息絶えていた。伸びた草に隠れて、それが何かわからなかった。


昨日の夕方、草むらの中で何かが息絶えていた。次に見た時、それは消えていた。それは初めからそこにはなかったのだろうか。







昔々、俺が中学生になる前のこと。俺は父さんを酷くおそれていた。

それは、小さい頃から自分のことを「悪い」や「鬼」といった言葉で罵る大人に対する恐怖心だった。無力な子どもを暴力で捩じ伏せようとする姿こそ鬼そのものだった。

俺は、それに恐怖した。

中学生になって、俺はそのことを自覚した。父親そのものが恐いんじゃなくて、父さんのどこに対して自分が恐怖しているのか。

父さんから離れて生きることのできた小学生の時期に、俺は考えることができた。亡くなったあの先生や、俺を守ろうとしてくれた大人の、桜ヶ原の先人たちのおかげだった。


それがあったから、俺は意外と冷静に家へ戻ろうと決心が着いた。冷静に? いや、もしかしたら怒りとかが一回りして冷静に見えてただけかも。

なあ、どうだった? ああ、やっぱりみんな心配だったんだ。ごめんな。みんな、あんなとこに帰させたくなかったよなぁ。


でも大丈夫!

帰ってからの俺と父さんは何にもなかった!

落ち着いて仲直りしたのかって?




そんなわけねえじゃん。




父さんは俺を見なかったんだよ。




ある意味鬼子扱いより酷かったかもしれない。父さんは俺が目の前にいるのにいないように扱ったんだ。

俺は家では幽霊だったんだよ。


俺は、父さんにとって、いないはずの、いちゃいけない存在だったんだ。


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