第3話-1鬼の子ども

俺は父さんが嫌いだ。

理由は、わかるだろ? 覚えている記憶の一番最初から最後まで、あの人の怒鳴り声だけしか思い出せないよ。顔だってよく思い出せない。もちろん、写真なんて残っていない。


「お前が悪い」


小さい頃からずっと心に染み込まされたトラウマだ。

実際、自分で悪いと思うところもあるから否定できない。ごめんなさい、ごめんなさい。ひたすら謝ることしかできなくて、あの先生に出逢うまでは大人に顔も上げられなかった。大人が恐かった。


保育所だって入れてもらえなかった俺はいつだってひとりぼっちだった。預けられても親が迎えに来なきゃなぁ。

だから、捨てられなかった方が俺としては不思議だったんだ。

実際は生きているのか怪しい状態だったみたいだけど、それは俺の体質がいい方向に働いたんだろうな。死ぬのが遅れていたんだよ。

死に遅れっていうやつかな。え? そんなこと言わない? じゃあ、俺が言うわ。俺は死に遅れていた。


父さんは思っただろうな。

どうしてこいつはそこにいるのか。ってさ。

生きていちゃ悪い奴が目の前にいる。昨日も今日も、ずっといる。




いつからか、父さんが言う言葉が変わったんだ。

いや、もしかしたら始めからそうだったかもしれない。


「おまえが悪い」


から


「おまえは鬼の子だ」


そう、言い始めたんだ。




自分の子じゃない。鬼の子だ。

母親の腹を食い破って産まれた、鬼の子だ。

痛かったよ。

俺は父さんにとっていらない子で、生きてちゃいけない子だった。しかも、人ですらない、鬼の子だってさ。

痛かったさ。

親にそんなこと言われて。それにさ、


オニハタイジサレナイトイケナイダロ?


父さんは、鬼を退治しようとした。叩いて叩いて叩いた。首を締めた。殴って、家に入れようとしなかった。

それでも鬼はしぶとく生きていた。

起き上がって、息をして、血を流していた。痛みなんて感じてないような顔をして、ごめんなさい、ごめんなさいと謝り続けた。


痛かったよ。


鬼の子は、俺は、すごく痛かった。


痛かったんだよ。父さん。


殴られたその時は痛くなかったかもしれない。でも、確かにそれは後からでもやってきたんだ。

逃げられなかった。逃げちゃいけなかった。だって、俺が悪かったんだから。全部、俺が悪いんだから。

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