次世代シミュレータの未来

Firefight

2070年12月31日

 全く事情を知らない人がその日のぼくらの会話を聞いたら、世界終末の日の夜だと確信したに違いない。実際にはただオンライン・ゲームが一つサービス終了するだけなのに、ぼくらはそれくらいの悲壮感と絶望感をただよわせていた。


「こんな思いをするくらいなら、村人のNPCとして生まれたかったぜ」

 

 ボイスチャットから聞こえてきた野太い声の主は、Borg。もう2年以上の付合いになるけど、いまだにその8割くらいは理解不能な男だ。いつもは周囲を威圧するような太い声だけど、今日は涙声になっていた。こんなことは初めてだ。


「でも、そうすると世界と一緒に滅びちゃうんじゃない?」


 ぼくは言った。


「んなことはわかってる。村人NPCなら、少なくとも世界の滅亡を見なくてすむだろ」


 黒光りする鎧のオークが、ドラミングをした。Borgの操作キャラだ。


「まあ、気持ちはわかるけど……」


「おれたちは歴戦の勇士だ。一緒に四神獣も邪神も倒したじゃねえか。ストライキだ。ストライキ一択だ。おれたちの力で、運営を屈服させるんだ」


「でもBorgさん、運営を屈服させても仕方ないですよ、」


 ボイスチャットの穏やかな声の主は、Moriさん。Borgの荒々しい声とは対照的で、耳に心地よい。実際、性格も正反対で、温厚な紳士だ。


「運営会社は、投資ファンドに買収されちゃったんですから」


「でも投資ファンドなら、なんで20万人のプレーヤーがついてるゲームを終わらせるんでしょうか?経営的に愚策では?」


 ぼくは言った。


「たしかにAlanさんの言う通りですね……」


 Moriさんが言った。このAlanというのは、ぼくのハンドルネームだ。


「……投資ファンドの考えてることなんてわかりません。何か深い考えがあるのかもしれませんし」


 茶色いローブの僧侶が、肩をすくめる。Moriさんの操作キャラだ。


「なめるな。おれたちの世界をなんだと思ってるんだ!」


 Borgの野太い声とともに、ボイス・チャットから、投げつけられた物が壁に当たる音が聞こえた。

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