薬草とりは欲張らない

のんべん

第1話 1日の始まり


 城壁は彼方かなた、今日も馬車や人がまばらに行く慣らされた街道を少し駆け足で行く。

 地平からの日差しはまだ弱い。これだけ早くに出ればポーションの質を上げる草のつゆも手に入り一石二鳥だ。目的地は早く到着する程良い。多くの人はまだベッドの中だろう。


「仕込みがうまく行っていればいいけど…」


 ぼやきながらしばらく駆けた街道をれて足速に草原を抜ける。10分もすれば城壁の周り、整備された木のない草原からちらほらと木々が見えて来た。目的地はすぐそこだ。


 まばらだった木々が林といえる密度に差し掛かって来たので少し早めに朝食とする。滅多にないが、小鬼ゴブリンが出ることもあるので丈夫な木の枝に登ってアッポの実をかじり、セッズ豆を3粒水と飲み込む。

 赤くれた物を選んだが、アッポの実は酸味が強かった。キュッと口がすぼまるが全て食べきり芯をリュックの一番外側のポケットへいれる。

 セッズ豆は栄養こそないが水と飲めば小腹を埋めるのには最適だ。じわじわとかてに変わる。

 これで昼まではもってくれるだろう。去年は2粒で満腹だったのに今ではこれで腹八分といったところだろうか…。


 木から降りて深く息を吸う。

 誰もいない一人の林は静かだ。しかしこれから恵みを享受する立場として礼儀は欠かせない。


 本日の恵みが明日のかてになりますよう。

 本日の奪う命が明日の命になりますよう。


「よろしくお願いいたします。」


 薬草と晩御飯のお肉が獲れれば嬉しいな。

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