偽りの妃(サンサ視点)
「お前が解毒薬をカヤに飲ませたとはまことか?どこで手に入れた?」
「タオさんに頼み手に入れました。ほんとに良かった。」
「……そうか、やはり特殊な毒だったか。」
「殿下、マリ様ですが、本当に極刑ではなく国外追放で良いのですか?」
とタイガの隣でトンガが問う。
「ああ 死んで終わりなら気が収まらぬ。西だ、西へやる。もうじき迎えが来る」
「は?」
「え?迎えとはなんですか?あの、またいつ殿下の命を狙うかもしれません。心配です。いっそのこと極刑にしては?私の姉ではありますが、そうも言っていられません」
「……タイガ、今すぐ山の牢へ人を送れ。セリを確保しろ」
お前はマリだ。私には同じに見える訳がない。痩せただけではセリにはなれぬ。
「セリは私をサンサ様と呼ぶ。殿下とは言わぬ。」
「……え」
「タイガ、この城は包囲されたのではないか?先程から剣の重なり合う音がしていた。」
「はい。殿下の指示どおり、敵陣を中へ誘導しています。」
西の兵が攻め入って来ると情報が入り、戦う予定であったが西の小隊がセリを攫いにやって来たと知り作戦を変えた。
「サンサ殿下!このまま城を明け渡すか、セリ様を差し出すか答えていただきましょう!!」
マリをセリだと信じた西の兵士が大声を上げた。城を明け渡す?うちはあえて最低の兵力で城を守っている。お前たちを中へ入れるためだ。
「違うわー!!私じゃないっ私はセリじゃない!!」
セリに成りすましておいて、今度はセリではないと?全く都合の良い女だ。
「城は明け渡さぬ」
「サンサ!サンサ殿下!!ちょっとタオ!タオ!何とかしなさいよっ」
タオも知らぬ顔をした。仕方がない、首を刎ねるよりは西へ行くほうが良いだろう。セリの父へせめてもの配慮だ。
マリはもがいていたが、ただ見送るように立つ私達を見ておとなしく歩いていった。
ミラクの元へ着けばセリではないとバレるやもしれん。その時はその時だ。
「私も山へ急ぐ」
「はい、殿下」
◇
「セリは?」
「あ、殿下。セリ様はあちらに。あの、セリ様とは思わず本人もマリだと言われたので、えっと」
「なんだ?何をした?」
「…………」
「何をしたか申せ!!!」
「う゛」
私は怒りに任せ護衛の髪を掴みあげていた。
「サンサ様、私なら大丈夫です。少し足を怪我しただけです」
振り向けば頼りなく立つセリが居た。
何を思ったか私は白い囚人着に身を包んだ小さな体を抱きしめた。
「……サンサ様」
足を確認すると足首に縄で擦れ赤く腫れている。
「何故こんな事を……解毒薬のためか?」
「…………はい」
「マリはお前に成りすまし、お前を身代わりに極刑に処そうとした。」
「極刑…………」
「だから、西に飛ばした」
「西?」
「ああ。ちょうど奇襲が来たのだ。お前を奪いに来た。お前が居なくて良かったが、もう二度とこんな真似は許さぬ」
「……はい ごめんなさい」
「……馬鹿者」
「サンサ様っ、腕が傷だらけです」
見れば傷だらけであった。恐らく必死で馬を走らせ夜の林を抜けた際枝にすったのだろう。急いでいて羽織を忘れていた。
「ああ 大したものじゃない」
「サンサ様……私の為に……ありがとうございます」
「お前の為ではない。お前は私の命を握っておるのだ」
「あ」
本当はお前が心配だ。何故か放っておけず視界に入らなければ不安になる。これまでこんなふうに誰かを気にしたことなど無い。
お前が、私の余命を延ばすのに必要な妃だから……そう自分に言い続けてきた。
自分の命とこの国が大事なのだ。使命だからだ。
「セリ、乗ってきた馬はどうした?」
「あ あー!!!!」
また馬を一頭逃したようだ。ったく……乗り捨てか。
「乗れ」
セリを前に乗せゆっくりと来た道を戻る。
「サンサ様!前が見えません」
「そうだ。お前もよくこの道を一人で来たな」
「必死だったので」
「私もだ。前が見えぬ、もう少し小さくなれ」
「え あ 後ろに乗ります、あ 私が馬を」
「駄目だ、二人で崖に落ちたらどうする」
「崖?!崖ありますか?ここ?!」
「はあ……右手は崖だ」
此度の騒動では大きく減点だ。しかし、無事に戻ったので加点もしよう。
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